うばわれた遺骨の身代金を要求されて、拒否した家はふたつだけ。警視監をつとめていた小野田公顕と、真野という平凡な家族。しかしその家族の、正義と書いてジャスティスと読む幼い少年の存在に杉下は興味をおぼえる。その少年こそ、遺骨を盗難した幼い少年たちのひとりだった……
子供たちだけが社会の闇に対峙するため犯罪をしいられるパターンは同じでも、太田愛脚本より輿水泰弘脚本は良くも悪くも人工的でミステリドラマらしい。
良くも悪くもいつもどおりで、論理の飛躍は悪くないのだが、あまりミスディレクションに力を入れないので意外性が弱い。社会派テーマも流行りの表層をなでるようで、視聴者の価値観をゆさぶろうとはしてくれない。
前編で予想できたように盗まれた遺骨のひとつが小野田のものだったことは、本命の遺骨の目くらまし。特命係をドラマに巻きこむのと、せいぜい視聴者サービスくらいの意味しかなかった。
『相棒 season21』第20話 13～死者の身代金 - 法華狼の日記
しかし次回に明かされる動機にもよるが、盗まれた遺骨のひとつが小野田だったことは本筋とは関係ない視聴者サービスにとどまりそう。
無差別な遺骨盗難ではなく、隠された事件があばかれもするのだが、よくよく考えると13体も遺骨を盗む必要がない。最初から本命の遺骨を盗むだけでも、充分に犯人の目的は達成できたのではないか。
遺骨を盗めば盗むほど警戒されるだろうし、劇中で監視カメラに映ったように手がかりも多く残してしまう。本当の動機から考えると、他の家族には身代金1万円ですら無駄に要求しすぎている。
ただ一応、真犯人が幼い子供たちということで、犯罪も計画をたてるうちに遊びの要素がふくらんだのだろうと考えることはできる。野原に寝転んで自分たちの行く末を考える姿などは良い意味で切迫感がなく、束縛に対するちいさな抵抗のような良さはあった。
しかしやはり犯罪の本筋と小野田の関係が弱すぎる。あくまで想像だが、小野田の死を亀山が知るという企画が先にあり、しかし通常のTVドラマのスケールでは官房長クラスの死体をメインにとりあつかうことができず、事件の重心が分散してしまったのではないだろうか。
このシリーズの長編SPはひきのばしで薄くなったり、逆に面白そうなネタを安易にまとめて終わらせてしまう悪癖があるが、今回のような方向で完成度が落ちているのは珍しい。
