法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒season15』第9話 あとぴん〜角田課長の告白

五課の角田課長の同級生が、産廃場で死体となって発見された。その同級生は光田といい、写真部の5人組のひとり。写真部顧問の娘と結婚して子供も生まれていたが、20年前に行方不明となっていた。
地元の反対運動に聞きこみをすると、産廃場で働いていた光田は、現場監督の仁藤から暴行を受けたり、金をわたしていたという。その仁藤は、学生時代に光田の撮った写真で家族が離散していた……


サスペンスとしては、なぜか光田が写真と家族を捨てて、ふたたび写真機を手にした謎が中心となる。賞をとった光田の写真が、仁藤の家族の犯罪を告発するものであったり、捨てた家族から光田がうらまれていたり、最初は怨恨による犯罪かと思わせつつ、少しずつ人生をやりなおそうとしていた人々の姿が浮かびあがってくる。
真犯人を特定する伏線は、真犯人しか知りえない情報を意識せず語ってしまうという古臭い手法。しかし犯人でないと知りえないことは、捜査で集めた情報を時系列で整理して初めて浮かびあがるもので、けっこう感心できる複雑さ。その真犯人の動機とからんでくる反対運動の描写もけっこう良くて、産廃場そのものには反対せず不法投棄を問題視するという線引きで、社会運動としての妥当性を感じさせた。


しかし光田が写真と家族を捨てた根本の理由は、なかなか判明しない。賞をとった写真が仁藤を傷つけたことが原因というには、問題として弱すぎる。そしてEDに入りながら小さな罪があばかれることで、前を向こうとしていた物語が一気に後味を悪くする。
仁藤父の犯罪が、実は仁藤自身が手をくだしたという真相だけでミステリとしては充分。そこからさらに賞をとるために加工していたという真相が隠されているとは予想できなかった。ここで光田が写真をやめた意味がまったく違ってくる。
そして、写真のピントがいつも後ろにずれることから「あとぴん」と呼ばれた顧問をめぐる物語が浮かびあがってくる。ホスピスに入っていてサスペンスの中心からは不在だった顧問だが、事件をとおして浮かびあがる人間関係から人物像が浮かびあがっていた。それがEDの後味の悪さを、一気に教育者の力強さへと反転させる。
さらにその顧問の人間性が、どこか杉下と似ているという結論で「相棒」のドラマとして幕を閉じた。1時間ドラマながら濃密で、美しい構成。