今回は実質的に前後ともアニメオリジナル。かなり作画は良好。
「アッパレ! のび殿さま」は、のび太がTVドラマの殿様の立場をうらやんで、ドラえもんに「家来セット」を出してもらう。ミニサイズで奮闘する家来ロボットたちだが……
下剋上的な展開はなく、忠臣すぎるロボットにおせっかいをやかれるパターン。ささいなミスですぐ切腹しようとして、のび太にそれを止められると感動する。けっこうリアルな歴史の知識をもりこんでいて、ドラえもんが殿様という立場も指導者として苦労したと最初に指摘したり、毒見によって殿様はまずいものを食べていたという話をしたり、たまに『ドラえもん』が見せる教育漫画の側面が再現されていた。
また、ミニサイズで冷蔵庫からジュースを出そうとする場面など、映像作品としてもおもしろかったが、これならば家来ロボットの視点で統一してほしかった。あるいは、家来が実際に忠義をつくすかのび太が見にいくという描写にするか*1。やや物語が散漫な感じがあった。
「秋の虫のリサイタル」は、夜のおつかいで空き地をとおりがかったドラえもんが、虫の声に耳をすませる。その美しい声を広く聞かせたいと行動するが、実は虫には秘密があって……
原作として「虫の声を聞こう」「騒音公害をカンヅメにしちゃえ」が公式サイトにクレジット*2。メインとなっているのは前者で、後者は秘密道具「吸音機」の描写を引いているだけ。虫の声も近すぎれば騒音となるという部分は観点としておもしろいが、そうした面白味は中盤で終わってしまう。
なんといっても、実際は個人が育成したものなのに、虫の声を単純に「自然」と位置づけるズレが気にかかる。最後におこなわれる虫の演奏会も、オチもふくめて『ドラえもん』らしいSFで楽しいが、きわめて人工的なものだという自覚が足りない。
今回は素直に前者をアニメにして自然の情緒や生物の知識にまつわる描写をふくらませ、環境の回復などを教えながら、前述のズレをドラマに昇華してほしかった。
こちらも昆虫描写はディテールが細かく、小野慎哉作画監督による作画も絶品だったが、物語のリアリティレベルの乱高下についていけず、映像の高揚感には欠けていた。残念。