法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『残響のテロル』11 VON

自動的な報復を中止しようとナインたちが奮闘する話になるかもしれないと思っていたので、直接的な死者を出さないかたちとはいえ原爆使用を実行する踏みこみは良いと感じた。
その爆発後の穏やかな時間の流れと、無人となった都市の風景も良かった。こういう情景を見せたい気分が先にあって、それにそって物語をつくったんじゃないかなと想像してしまう。それであれば、もっとそうしたイメージから逆算的に物語を組み立ててほしいところだが。


いろいろ思うところはあったが、期待より小さいながらも広げた風呂敷をたたんだのは良かった。最終回をはじめとした、心象的な風景の演出にはさすがと思うことがあった。
だからこそ、『スペース☆ダンディ』ならば1話で描ける内容を、えんえんと11話にひきのばしたような物語だとも感じた。そうでなくても長編映画ひとつで描けるくらいの内容だろう。1クール近くかけて描いたから、特にうまいわけでもない頭脳戦的な描写が必要となり、ことさら疑問点を多く感じさせてしまった。勢いがないから、視聴者の予想を超えることもできなかった。


つまるところ、視聴側の期待や予想をコントロールできないことが大きな問題だった。もっと情報の出しかたを変えていれば、ほぼ同じ物語でも評価は変わっていたかもしれない。
たとえば、直接的な殺人はしないというナインやツエルブの制約を最初から示すべきだったのではないか。制約内でできるだけ大きな騒動を起こす展開が楽しめたかもしれないし、その手段に原爆まで持ちだすことに驚けたかもしれない。
もうひとつ、物語として動機がありきたりなところはいいが、だからといって動機をそっけなく明かすだけで謎解きを終えられても満足できない。謎めいた展開をさせたいなら、動機の他に興味を引く別の謎、もしくは視聴者を誤解させる引っかけがほしい。
たとえば、冒頭でプルトニウムを強奪したのが別人とミスリードしていればどうだったろう。人を殺さないテロリストと、プルトニウムを強奪した本気のテロリストを対比させると見せかけて、第9話あたりで両者が同一と示せば驚きを生めたのではないか。
他に、せっかくならサブタイトルになっている「VON」について、口頭で「ボン」とだけ表現しつづけて、「BOMB」とミスリードするくらいのことはしても良かった。これはこれで陳腐だが、そう思うくらいミスリードが不足していた。


あと、ただのテロリストであればメッセージを出そうとしないはずだという刑事の台詞は、あくまで登場人物の認識とはいえ、テロリストを悪魔化する日本社会に毒されすぎだ。