法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

“最近のラノベ”として、冲方丁の『シュピーゲル』シリーズが出てこない謎

以前から“最近のラノベ”として一部作品の画像がインターネットに出まわっている。標的にされているのは、文字遊びを多用したり、イラストと連動したり、タイポグラフィを活用した演出。それらが小説ではないとして批判されている。
なぜ文章ではない表現を使えば小説でなくなるのか、そもそも一般的な小説でないことは悪いのか、そうした当然の反論もされている。そこで一般的にライトノベルとはみなされていない作品、たとえば『虎よ、虎よ!』を前例として示している場面もよくみる。
http://d.hatena.ne.jp/srpglove/20140806/p1


その論争の本筋とは違うところで、不思議に思っていることがある。槍玉にあげられる“最近のラノベ”に、なぜ『シュピーゲル』シリーズが出てこないのか。
「オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White」立ち読み

シリーズのはじまりは2004年に雑誌掲載された短編だという。島田フミカネ絵から想起された義手義足の子供たちが、国家の犬となってテロリストを撃滅する。
読者投稿の設定をとりいれたりしながら、ふたつのレーベルでふたつのシリーズを連動させて2007年から2008年にかけて発表。中断していた完結シリーズが電子書籍連載として再始動している。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00MA27J9G
ざっと見てタイポグラフィは少ない。イラストとのわかりやすい連動もない。しかし、文章を崩して記号化した「クランチ文体」の個性は、ななめ読みでも気づくだろう。


中断していたとはいえ、人気作家が手がけた有名シリーズだ。文体のみならず、イラストの物語への反映や、読者との交流など、論争とは無関係に“ラノベ”における表現の幅を考える材料となりうる。
しかし“最近のラノベ”として言及されない。たとえばツイッターで「“最近のラノベシュピーゲル」を検索しても引っかかるのは1ツイートのみで、上述の論争とは全く関係ない文脈だった。
“最近のラノベ”シュピーゲル - Twitter Search
「“最近のラノベ冲方丁」ならば数ツイートが引っかかるが、なぜか『シュピーゲル』シリーズを差別化しようとするものばかり。
“最近のラノベ”冲方丁 - Twitter Search
ライトノベルとみなされない分野でも作者が成功して権威化されたから批判されない……とは限らない。ゆるされる前例として参照している場面も見当たらないのだ。忘れられた作品だからこそ“釣り”に利用する、といった場面も見かけなかった。


一部のライトノベルだけを私は数年遅れで読んでいるので、多くの読者と感覚のずれがあるだろう。だからこそ、たまたま追いかけているシリーズが言及されないのはなぜなのか、気になっている。