法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スターシップ・オペレーターズ』雑多な感想

 学生たちによる宇宙戦艦での実習が終わろうとする時、突如として本星が侵略されて即座に降伏。難しい立場となった学生たちは、メディアの取材をうけいれるかわりに支援をえて、子供ばかりの独立戦争を単艦で始めることになる……


 水野良ライトノベルを2005年にTVアニメ化したスペースオペラ。1クールとはいえ、渡部高志監督が全話コンテを、富沢義彦シリーズ構成が全話脚本を担当した。

 いかにも1990年代をひきずった古いライトノベルらしい内藤隆の挿絵から、松本文男による頭身高めのキャラクターデザインに変更された。

 OPは松田宗一郎パートがリピート作画で短く、和田崇のキャラクター作画は松田デザインにあわせた描線の単調な太さで、何より当時なりのクオリティ低めの3DCGを多用していてきつい。
 しかしデザイン化されたEDは現在に見てもすばらしい。ちょっとだけ動かすパートも、枚数多めに「ぬるぬる」動かして静止画との対比が映える。

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 本編も3DCG多用の艦隊戦はきついが、破壊される時の手描きエフェクト作画が短いなりに良くてカタルシスがある。橋本敬史新井淳などが原画で参加。部分的なメカ作画もキャラ作画も安定しており、高水準というわけではないが安心して見つづけられる。全話監督コンテのおかげだろうか。


 物語は導入の第1話がとっちらかっているところが痛い。子供だけで思いつきのように侵略に抵抗しようと混乱しながら漂流をはじめようと論争をするAパートから、CM明けで混乱が収拾されてメディアにスポンサードされて孤独な戦争をするBパートへ、どっちつかずに異なるテーマをつめこんで印象がうすくなってしまっている。
 パートごとに異なるテーマをうまくつめこめば密度が高く変化に富んだストーリーになりうるが、この第1話はそれぞれのテーマをきちんと物語に落としこむには尺が足りていない。Aパートは混乱しはじめたところでCM入りするし、Bパートはメディア人がいきなり子供たちに指示していて、キャラクターをつかんですぐ第1話が終わってしまう。
 まずは子供だけで論争して混乱しながら無謀な抵抗へかたむいて孤立する漂流劇にしてメディアとの接触は次回にまわすか、メディア人に指示されながら子供だけで戦争をおこなっている奇妙な風刺劇の第1話にして漂流の発端は回想や劇中記録映像で処理するか。第1話のテーマをどちからに一本化すれば、作品全体がどちらを中心に描きたいのか明確化できたとも思う。


 ただ原作からの改変がけっこう多いとして当時は不評をよく見かけていたが、第1話で提示したリアリティの基準は守っていてライトなSFとして意外と悪くない印象が残った。
 特に若者の葬式のコンテンツ化は『革命機ヴァルヴレイヴ』の先駆か。こちらは子供たちなりの思いやりが自発的にコンテンツ化に向かってしまうブラックさはなく、あくまでメディア側が絵になる情景をもとめた結果だが、それもふくめて子供たちの悲劇的な物語を読者や視聴者がもとめてしまう娯楽自体の醜悪な側面をメタな視点で風刺できている。
 1クールなので『無限のリヴァイアス』と違って艦内の不和や主導権移行には尺をつかわない。主人公たちが若者とはいえ軍人としての教育課程にある違いもあるだろう。結末に限っては、最終的に社会秩序と妥協して終わった『無限のリヴァイアス』より、権力と陰謀に中指を立てて終わったこの作品のほうが好みかもしれない。
 いかにも視聴者受けしか考えていなかったメディアマンまで、最終的にはジャーナリストの矜持を見せる。反権力的な思想のあらわれというより、政争にひっかきまわされる現場のプロフェッショナルにロマンを見いだす思想から行きついた結論だとは思うが、最終的に軍人だけでなく報道にもそのロマンを見いだしたのが21世紀のアニメでは貴重だとも思えた。