法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』少女たちの戦争〜197枚の学級絵日誌〜

昨年に関西地区で放映された番組を、全国枠の『NHKスペシャル』で放映したもの。時代の流れにあらがおうとした教育の記録と、当時をふりかえる生存者の証言で構成された、静かなドキュメンタリー。
NHKスペシャル
滋賀県大津市で、大戦末期に5年生の少女が協力して絵日誌をつづっていた。戦時下でも文化をはぐくませようとした27歳の女性教師が、「見たまま感じたままを書きましょう」とだけ指示し、始められたものだった。
教師は内容に介入することなく、少女の視点で当時の生活が記録されていく。しかし身近にせまる戦争もまた、少女の感性に反映されていった。


絵日誌は大津市歴史博物館に所蔵され、ちょうど夏休み期間中の企画展に展示されているという。
企画展 湖都大津のこもんじょ学|お知らせ|大津市歴史博物館

得意な児童が分担しただけあって、文も絵も見やすく、かわいらしい。もちろん戦争がはげしくなるにつれ、出征する身近な人々も出てくる。その家族が涙を流してたことは、絵日誌には書きのこされなかった。
やがて本土も空襲されるようになって、「小国民」らしい米軍への反感が書きつづられるようになる。もともと少女しかいない学級だったが、かなり好戦的な文章が出てきて、言葉づかいも画一化していく。


ここまでは視聴前に予想していた範囲にとどまっていた。小国民の好戦的な気分は普遍的なもので、学校で書かれた絵日誌ならばなおさらだろうと。
しかし絵日誌は予想外なかたちで中断される。最後に書かれた1枚には、用紙の左半分を使って巨大な黒いB29が描かれ、「にくらしきB29 今に見てゐろこの戦」という一文がかぶせられた。機体が真っ黒なのは、銀色に反感をもった少女たちが、あえて塗りつぶそうと決めたため。
それを見た教師が、翌日に少女たちへ中断をつげた。「もう絵日誌は終わりにしましょう」と。それまで内容に口を出さなかったように、中断の理由も語らなかったという。


この絵日誌は、戦争に教育が敗北した記録であるかもしれないし、最後の瞬間まで教育が戦争を押しとどめようとした記録なのかもしれない。
中断について、生存者のひとりが「実はほっとしていた」と証言する。
米英を憎く思っていたのは事実で、しかしそれを言葉にするのが嫌だった、と。
今になって思うと、絵日誌を書きつづければ、もっと過激な言葉になったかもしれない、と。