法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『“終戦69年”ドラマ特別企画 遠い約束〜星になったこどもたち〜』

TBS系列の特別番組枠「テレビ未来遺産」で放映されたドラマ。敗戦後の満州で難民収容所で苦しい生活をしいられた孤児たちを、ともに生活していた男性の手記にもとづいて描く。
テレビ未来遺産“終戦69年”ドラマ特別企画『遠い約束〜星になったこどもたち〜』|TBSテレビ
ひらがなとカタカナを多用している公式サイトが面白い。子供が見やすいように作っているのかもしれない。
原作となった手記の一部は、中国帰国者支援サイトに掲載されている。
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まずドラマが始まる前に、満州国の建設から大戦末期のソ連侵攻まで簡単に解説される。
語られる問題といえば、美辞麗句で貧民を集めて満州開拓がおこなわれたことや、ソビエト連邦が中立条約を破って侵攻したことといった、開拓民視点の悲劇ばかり。満州国について、今の中国が「偽満州国」と呼んでいると説明しながら、そのくわしい理由は解説しない。
日本が「占領」して満州国をつくったとは説明するものの、そもそも日本の謀略で満州事変がはじめられたことや、その謀略が日本の孤立と大戦への突入をまねいたことは、いっさい言及されない。
なお公式サイトの「じだいはいけい」では、満州事変が日本側の謀略で始まったことは明記されている。こうした常識的な説明が番組本編でひとことあるだけでも充分だったのだが。
げんさくぼん|TBSテレビ:テレビ未来遺産“終戦69年”ドラマ特別企画『遠い約束〜星になったこどもたち〜』

大日本帝国陸軍(だいにっぽんていこくりくぐん)の満州在留の関東軍南満州鉄道の線路を爆破した 「柳条湖事件(りゅうじょうこじけん)」 が発生。関東軍はこれを中国側の仕業として軍事行動に出る。これを機に中国との武力紛争(ぶりょくふんそう) 「満州事変(まんしゅうじへん)」 が勃発。関東軍は約5ヶ月ほどで満州全土を掌握(しょうあく)。


ドラマ本編では、まず序盤にソ連軍と関東軍の衝突と、空襲下で逃げていく開拓民が描かれる。
とりのこされた人々が遠景で去っていく蒸気機関車を見る場面や、豪雨の河をわたる情景など、短いながら充分な見せ場になっている。他に番組開始20分ほどの、玉音放送をかぶせた絶望的な戦闘シーンで、3DCG戦車の出てくる1カットが興味深い。格別にクオリティが高いわけではないが、それらしく戦場を描写しようとする努力を感じた。他の戦闘シーンもドラマの中核ではないのに、きちんと塹壕を掘ったりして変化をつけている。
やがて旧満州国首都の長春にたどりついた人々は、難民収容所とされた建物群で内地への帰還を待ちつづける。元司令部がソ連兵に占領されていることで敗戦を知る主人公や、屋台から饅頭を盗む孤児の痛々しさは、なかなかドラマとして良い。かつて自殺に使おうとした小刀を主人公が売って饅頭を買い、助けた孤児に与えてやる場面など、きちんと行動で主人公らしさを表現できている。


やがて共同生活するようになった男女と孤児5人が、北斗七星に自らをなぞらえ、ともに暮らすことを決意していく。市街地は中国にあるオープンセット上海影視楽園*1で撮影され、長春の巨大さがよく表現されていた。難民収容所も貼り紙などでそれらしく演出され、俳優の服や肌も念入りに汚され、映像面での粗はない。
むろん決意を裏切るように7人は離れ離れになっていく。中国人に身を寄せたり、病魔に倒れたり。ただし悲劇が連鎖していくという作りではなく、それぞれの生活を送るなかで異なる道を選ぶ葛藤や、元士官であった主人公*2の責任が問われる物語となっている。
特に後半での、老人の言葉が印象深い。少しずつ増えていく難民収容所の墓標を前にして、主人公へ語りかける。開拓民が日本に捨てられたこと、満州が奪った土地であったこと。この言葉があるから、戦争が天災であるかのように錯覚することを防ぎ、日本が一方的な被害者であるかのような視野の狭さも脱した。
さらに老人が言う、死んでいく者たちを記憶していくことの大切さ。これが本土帰還後の主人公が戦争を語りつぐ、理論的な支えとなる。そして主人公が戦争の記憶を語りつづけたからこそ、奇跡的な再開をはたすこともできたのだろう。


あえて現在にドラマ化する意義を、きちんと物語内で表現できているので、視聴後の感想は悪くない。開拓団が棄民であったことは示されていたし、日本が侵攻した責任も言及できていた。
日本人が中国人の反感を買っている場面も、ソ連兵の暴行を暗示させる場面もあったが、差別意識とは距離がとれていた。難民が中国人の家族になることについて、事実上の身売りではないかと葛藤しつつ、家族にした中国人個々人が善良であったことは示唆されていた。
やはり問題は番組の外枠となる解説部分だ。先日にフジテレビ系列で放映されたペリリュー島ドラマよりは良いが、現在の日本で過去の加害を言及することがいかに難しいか、残念な気持ちになった。
『終戦記念特別ドラマ 命ある限り戦え、そして生き抜くんだ』 - 法華狼の日記

*1:http://www.shfilmpark.com/

*2:なお原作者自身は衛生兵であり、母とともに難民収容所にいたという。http://www.tbs.co.jp/to-i_yakusoku/intro/