主人公とロボットと出会って戦うまでの時間
今期はオリジナルのロボットアニメが複数あり、それぞれ話題を集めている。アニメ技術の向上を反映し、3DCGで描画されるロボットも違和感が少なく、映像は悪くない。
しかし第2話まで見た感想として、どれも話運びがうまくない。ロボットを活躍させる段取りが悪くて展開が遅かったり、古い作品をなぞって新鮮味がないのに整合性も欠けていたり。
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現在は過去と比べることで見えてくる。前例をふまえてこそ発展がある。そこで新旧のロボットアニメから、自然な展開でロボットを活躍させたり、情報密度が高かったりした第1話を、いくつかのパターンに大別して紹介したい。
主にとりあげるのは『機動戦士ガンダム』『装甲騎兵ボトムズ』『勇者王ガオガイガー』『FLAG』の4作品で、他にも応用的な作品に言及する。ある程度までネタバレしながら説明するが、できるだけ無料配信されている第1話も紹介して、先入観なく視聴しやすくした。
もちろんロボットアニメとしての評価が中心になるが、各作品は他ジャンルを見る時にも参考になると思う。
・主人公とロボットと出会って戦うまでの時間
・民間人が戦闘に巻きこまれる『機動戦士ガンダム』
・その他の主人公が特例でロボットに乗る展開群
・戦争の日々から物語が始まる『装甲騎兵ボトムズ』
・戦う主人公と見守る主人公の『勇者王ガオガイガー』
・人格あるロボットと主人公が出会う物語群
・第三者視点からロボットを描く究極の『FLAG』
・ロボットと主人公の関係における現状と今後
民間人が戦闘に巻きこまれる『機動戦士ガンダム』
戦場を舞台としている作品でも、第1話における主人公は民間人であることが珍しくない。主人公の立場を理解しやすくするためだろう。しかし世界観のリアリティを高めるほど、民間人を軍用機に乗せるまでの距離が長くなる。
そのような作品の第1話で主人公をロボットで活躍させる時、必要なことは三つある。どのように主人公をロボットのある場所へ導くか、なぜ主人公がロボットを操縦できるか、なぜ主人公はロボットで戦おうとするか。
そうした一般人がロボットに搭乗して戦うまでの展開において、発端にして完成しているのが1979年の『機動戦士ガンダム』だ。
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簡単にいえば外部から攻撃され、身を守るため兵器に乗りこむ。ただそれだけの展開が唐突にならないよう、舞台設定から日常描写まで入念にしこまれている。
まず敵軍の偵察部隊が市街地を観察し、出勤時刻なのに人影が見当たらず不思議がる。そして車を走らせる少女を見つける。主人公の幼なじみだ。
この場所に新兵器があることや、敵勢力は少数偵察のため後々に性能差だけで反撃できることがわかる。群衆を作画する手間を自然に減らせるし、戦いの舞台となる街の全体像も印象づけられる。
そのまま幼なじみは家に入り、避難が遅れていた主人公を迎えに来ていたことが示される。わずか5分で、自然にカメラを動かして主人公を登場させた。
ここで、殻に閉じこもった主人公の性格や、機械いじりが趣味という最新兵器との親和性がわかる。戦時下でも趣味を優先する性格は、後述のマニュアルを読む展開にもつながる。
避難の遅れは、敵軍や新兵器と出会う展開の説得力も増す。その場にいる人数が少なければ、出会う確率が上がるわけだ。敵軍に攻撃された少数から主人公だけ新兵器を入手できたのならば、ただの幸運ではなく不幸中の幸いとなり、心情的にも納得しやすい。
そして主人公は軍属の父に便宜をはかってもらおうと考え、避難場所の扉を開けた瞬間、目前に巨大な敵機が現れる。
手前に主人公を入れ、樹木で距離感を表現し、ロボットの巨大感も充分。富野喜幸コンテと安彦良和レイアウトが合わさって、この第1話はロボットの大きさも見事に表現されている。
父親を探して主人公が軍人と会話したところ、爆撃にあう。逃げようとした主人公は、爆風で飛んできたマニュアルに目を止める。軍人が持っていたものだ。このマニュアルを開くことで、はじめて主人公はガンダムの存在を知り、そのままCMに入る。
ちなみにBパートに入っても主人公はマニュアルを読みふけるわけだが、さすがに不自然と思わなくもない。現代にリメイクするなら、避難場所で暇つぶしのため続きを読むとか、避難に役立つ情報を探して意図せず操縦方法を知るとか、そういう展開になるだろうか。
ガンダムを見つけて主人公が乗り、戦うまでの流れは有名だろう。敵が攻撃してきたから、たまたま近くにあったロボットに乗りこみ、生きのびるため戦う。自身が生きるためという理由で、戦闘することへの障害をこえるわけだ。幼なじみ一家がクライマックスで攻撃にさらされたことも、主人公が反撃するモチベーションとなる。最近に『革命機ヴァルヴレイヴ』*1の幼なじみが死んだことをモチベーションに主人公が決断した展開も、実は先例を発展させたものといえる。
ただし攻撃に対する反撃という部分だけをとりだせば、特筆するほど斬新というわけではない。むしろ昔から定番の展開といっていいだろう。注目するべき独自性は、敵が攻撃するまでの主人公をどのように描いたかというところにある。
そして『機動戦士ガンダム』以降も似たような第1話が作られつづけ、基本は変わらない。富野監督自身の作品でも、ロボットや舞台の設定こそ大きく変えつつ、ほとんど物語の骨格は踏襲していった。
その他の主人公が特例でロボットに乗る展開群
『機動戦士ガンダム』のように純粋な民間人が軍用機に乗るわけではなくても、偶発的に操縦者に選ばれるという作品は少なくない。
訓練などで戦闘はおこなわないはずだった新兵の主人公が戦わざるをえなくなる展開は、1991年のOVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』*2で見られる。主人公を民間人と熟練兵の中間に位置づけ、実戦へのワンクッションとして使われるパターンだ。先に弱い機体に乗せることで、主役機の相対的な強さも表現できる。ただし前半の訓練に尺をとっているため、主役機の戦闘は第2話でおこなわれる。
応用として、ロボットに乗りこんでいたら、たまたま近くに敵があらわれたという展開もある。操縦は予定通りでも戦闘が異例という構図だ。たとえば弐瓶勉原作の2014年『シドニアの騎士』は、第1話で特異な出自から新兵となりつつ、最初の出撃目的は機材設置にすぎなかった。そこで、いきなり登場した敵と直面する。これも本格的な戦闘は第2話に引いているが、かわりに工作活動を見せているし、冒頭の訓練シーンで主人公のアクションも楽しめる。
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どのような経緯で主人公がロボットと出会って、なぜ操縦できるかという問題にも、さまざまな解決法が試されてきた。
もともとロボット開発者と関係していたか、主人公が自覚しないまま操縦能力を持たされていたか、兵器でないロボットは操縦できた、といったワンクッションを置くことが多い。
最初のパターンは『機動戦士ガンダム』以前の漫画、1956年の『鉄人28号』や1972年の『マジンガーZ』の時点でも見られる。ロボットアニメにとどまらない物語の類型と考えるべきだろう。
次のパターンは、富野監督が『機動戦士ガンダム』の2年前に手がけた1977年の『無敵超人ザンボット3』で見られる。主人公たちは操縦能力を睡眠学習で持たされていた。この作品自体が、旧来のロボットアニメに設定をしっかりつけて説得力を出そうとする嚆矢だった。
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最後のパターンでは、2004年の『絢爛舞踏祭 ザ・マーズ・デイブレイク』が無料配信している。厳密には工作機械の操縦技術を先に見せて、兵器の操縦技術を持っていることを納得させるパターンだ。
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最後のパターンの変奏として、ゲームを通して戦闘方法を知っているという導入もある。たとえば富野監督が2002年に手がけた『オーバーマン キングゲイナー』や、仮想現実を舞台とした2006年の『ゼーガペイン』だ。
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ゼーガペイン | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
ただし、どちらも第1話だけでいうと、良さはあるが特筆したいほど秀逸とまではいいづらい。前者は森邦宏監督が参加したり全体のスタッフワークは面白いものの、初回は先走るように設定や状況を提示し、情報を制御する軸がない。後者は、ロボット自体の魅力を表現するには3DCG技術や演出が追いついていないし、初回では古典的な発端を見せるだけでドラマが駆動していない。
戦争の日々から物語が始まる『装甲騎兵ボトムズ』
最初から主人公をパイロットにして、操縦できる理由を説明せずにすませる作品もある。
そのように主人公が民間人でない場合、戦闘の日々から導入することが多い。相対的に主人公を身近に感じさせる手法といっていいだろう。まず日常たる戦争を前半で描いてから、新しい物語のはじまりを後半で展開する。
今なお究極のリアルロボット*3のひとつとされる1983年の『装甲騎兵ボトムズ』第1話を見ると、ほとんど極北にして完成されている。ロボットは兵士から人格を剥奪した世界観の象徴であり、固有の存在でこそないが物語の基盤でありつづける。
装甲騎兵ボトムズ | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
OP直後に設定説明を最低限で終えて、「終戦」という衝撃的なサブタイトルから、いきなり謎の作戦行動が描かれる。しかし障害を突破しながら基地を攻略していく流れは明快で、ロボットの形状は同じでもカラーリングで敵味方を区別できる。さらに腕の機械的な伸縮で攻撃するアームパンチというギミックなど、メカアクションの個性も充分ある。
まともに顔も見えず、同じ種類のロボットに乗っている主人公だが、ただひとり作戦目的を知らない立場ゆえ区別できるし、視聴者も視点を共有できる。そして主人公は謎に出会う。ここまで10分もかかっていない急展開だ。
後に状況のわからないまま主人公は尋問され、逃亡劇が始まる。全体が不明瞭でも、クリフハンガーな展開が興味を引きつづける。これ以降も1クール目は主人公の逃亡劇と仲間集めが中心の連続活劇となっており、リアルロボットらしい大局的な戦争ドラマは2クール目に行われる。いわれるほど地味なミリタリー作品ではないのだ。
シリーズの存在が定着してから2007年に作られたマニア向けのOVA『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』でも、さらに地味な設定でありながら、娯楽要素を忘れてはいない。
装甲騎兵ボトムズ ペールゼンファイルズ | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
TV版の前日譚として、今度こそ地味な戦場を描くかに思わせて、やはりドラマは戦場以外の場所から始まる。TV版の展開をふまえて、主人公が謎を追うのではなく、主人公自身が追われる謎となる。争奪対象や解明すべき謎が第1話から示されることで、以降の展開へ興味をひくことができる。
もちろん悲惨な上陸作戦は明らかに映画『プライベートライアン』の引用だ。しかし映像のハッタリは充分で、ただ顔のない兵士をロボットに象徴させるだけでは終わらない。移動の基点と遮蔽物をかねた巨大な杭や、ロボットが崖を昇るための簡易路面などの、個性的なメカ設定は類をみない。
近年のTVアニメで秀逸だったのが、GONZO制作で2002年に放映された『フルメタル・パニック!』だ。
フルメタル・パニック! | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
対比物の少ない荒野で、ちゃんとロボットの巨大さを表現したコンテも素晴らしい。遠景と近景でピントを変えたり、人間と同時に映る時はロボットを下半身しか画面に入れなかったり、しっかり空間を制御している。
軍用ヘリと相撲する場面など、純粋に映像の面白さがあるし、相手の操縦席の大きさと対比してサイズが表現できている。
登場する人物数をしぼっているのもうまい。この作品にはテッサという人気の少女キャラクターがいるが、第1話の本編には登場しない。戦場を生きている主人公の少年が、後半で日本へ行って学生になりすまし、アグレッシブな少女を真面目くさって護衛するという、ギャップのある面白味だけを前面に出している。
前半で描かれた戦闘も、少年少女が出会う後半の通奏低音として反映されていく。GONZO作品らしく粗い部分もあったが、おおむね学園コメディとロボットアニメのハイブリット作品として完成されていた。
一方、2005年の京都アニメーション制作による第3期『フルメタル・パニック! The Second Raid』では、ひとつの作戦で第1話が終始している。
フルメタル・パニック!The Second Raid | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
たっぷりメカアクションを楽しめ、これだけで完結している良さはあるのだが、あくまで独立した物語といったつくり。手間をかけて市街地でロボットを戦わせ、建造物との対比で巨大感を表現しているが、おおむね描写としては定石にとどまる。それでいて異常な跳躍力や特殊な装備がリアリティを欠かせる。
制作会社に定評があるだけあってキャラクター作画は極めて整っているが、メカアクションの経験は足りていない。比べるとGONZO版はOP映像などで省力も目立つが、やはりロボットやエフェクトの作画や3DCGでは一日の長があった。
生真面目な社風が裏目に出ている感もある。この作品に限らないが、主人公側が軍事組織として優秀であるほど、作戦も対応も準備されたとおりに進み、段取りを消化するだけになりがちだ。しかもこの第1話は敵組織が極めて愚かで、倒すことに悩むドラマもないため、主人公側の活躍だけ続く。主人公単独で敵地を逃げまどう展開で変化をつけようとしているものの、それも納得ずくで迷わず障害を片づけていくため、さほど緊迫感が生まれない。この問題については、ひとつの解決法を後述する。
戦う主人公と見守る主人公をわけた『勇者王ガオガイガー』
民間人の主人公と、兵士の主人公を、同時に両立させる方法もある。単純に、どちらも主人公にすればいい。
1990年代に、リアルロボットばかりが優勢だった時代に逆行するように、男児向けにつくられた勇者シリーズという作品群があった。平凡な男児の主人公と、人格あるロボットがパートナーとなり、勧善懲悪をおこなう。もちろん作品ごとに変化はあるが、高校生の主人公たちがロボットとなるという例外的な『勇者指令ダグオン』でも、武器に変形するロボットは独立した人格で動いていた。
そのシリーズの構図をつきつめて、第1話から主役機の設定を最大限に描写した作品がある。シリーズの最終作としてスタッフを一新した1997年の『勇者王ガオガイガー』だ。
勇者王ガオガイガー | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
「勇気」の連呼ばかりとりざたされがちな作品で、シリーズ全体のファンからは疎外されがちであったが、いわゆる熱血だけで問題を解決していたわけではない。『装甲騎兵ボトムズ』の高橋良輔監督がプロデューサーを担当し、当時に流行していた『新世紀エヴァンゲリオン』からドラマではなくメカ描写の影響を受けて、スーパーロボットとリアルロボットの魅力を両立させようとしていた。
もちろん男児向け作品である以上、玩具販促が目的であることは変わらない。主役機は中核となる変形ロボットと、合体パーツとなる3機のマシンで構成されている。その複雑なメカ設定を大量に見せながら、情報を整理して娯楽として成立させるため、ダブル主人公という構図が最大限に活用された。
まず廃棄物を集積してロボットが完成するのだが、この時に男児主人公もとらわれる。その男児主人公を救うため、中核ロボットがライオン形態で出撃する。
ここでライオン形態では敵ロボットにかなわないことと、しかし直前に一瞬で撃墜された自衛隊機よりは防御力があることが、見ているだけでわかるようになっている。
次に男児主人公を救うため、大人主人公が登場する。ドリル型のマシンで攻撃し、敵ロボットが気をとられている隙に救出に向かう。この時点でダブル主人公が顔合わせし、自己紹介という形でキャラクターを説明する。
敵ロボットが変形して大人主人公は排出されたが、すぐに新幹線型のマシンで追跡する。移動に制約が多くて物語に使いづらい列車パーツだが、ちゃんと出番を用意する。
まず敵ロボット内部で新幹線の音を聞き、次に横穴からマシンの姿を見るという順序がポイント。男児主人公の視点で各マシンの最初の活躍が描かれる。
さらに大人主人公が中核ロボットと合体。ステルス機型のマシンを使って飛行したり、敵ロボットを翻弄しながら男児主人公を救出。それまで登場した3機のマシンと中核ロボットが合体し、敵ロボットを撃破する。
冒頭から事件がはじまり、子供が拉致されることで緊張感をたもちながら、やつぎばやに敵味方が行動を起こす。ロボットを動かすのはプロフェッショナルだから、どのように操縦方法を知ったか説明する必要はなく、テンポ良く物語が展開していく。しかし視聴者と同じ視点で描写されるから、次々にマシンやギミックが登場しても混乱することはない。主人公の心情にそって、ロボットの活躍を追いかけていられる。
そもそも複座型といって、もともと複数のパイロットで操縦する場合もある。プロフェッショナルな主人公と、アマチュアな主人公が同じロボットに乗って、ドラマを展開しながら自然に活躍できる。導入部だけならば『冥王計画ゼオライマー』などが具体例にあたるだろう。
無料配信されている好例が見つけられなかったが、1999年の『ベターマン』も押さえておきたい。『勇者王ガオガイガー』のスタッフが同じ世界設定で展開したSFホラーアニメだ。怪獣に変身する怪人と他の人類との奇妙な共闘を描いた作品だが、ロボットアニメとしても見るべき部分が多い。説明を自然にこなせるように人間関係を整理したり、新しい設定を出して状況を変転させつづけたり。今期の『M3〜ソノ黒キ鋼〜』と似た方向性を狙いながら、ずっと娯楽作品らしく成立させていた。
他に複座型ロボットが出る作品として2005年の『交響詩篇エウレカセブン』*4が有名だろう。主人公の実家が修理工場で、そこに主役機がやってくる導入は良い。ただし主人公がロボットの知識や修理技術を持っている設定は、ほとんど活用されないまま終わった。主役機が複座型であることもボーイミーツガールのためだけに活用され、ほとんど操縦の補佐などでは活用されないまま終わった。そして主人公が主役機に乗って活躍すること自体、第2話まで待たなければならなかった。
作品全体をダブル主人公にしなくても、導入部だけパイロットと語り手を分離するだけでも、似た効果を出すことができる。
最近に秀逸だったのが2014年の『バディ・コンプレックス』だ。善良で嫌味のない主人公の性格を見せてから、ボーイミーツガールでロボットに同乗するまでの流れもよどみない。そのまま過不足なく、現代の市街地におけるロボット戦を描ききった。
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少女が操縦するコクピットに少年が同乗し、戦闘を間近で体験するというシンプルな展開は、多いようで意外と少ない。どうしても主人公が戦闘中に操縦を代わってしまい、主人公が見守る立場のままで初回を終えられないのだ。
ただし残念ながら第1話の面白味は、第2話以降と独立している。ロボットアニメとしての状況も、情景も、全く異なるのだ。必然性のある第1話ではあるが、人間関係から「バディ」の位置づけまで、全体からすると特異な内容だった。
人格あるロボットと主人公が出会う物語群
操縦者を二人目の主人公にしなくても、ロボット自身に知能を持たせても『勇者王ガオガイガー』と似た効果を出せる。そもそも勇者シリーズの多くの作品がそうであった。
主人公の能力が低くてもロボットで戦える説明ができるし、人間とロボットが心をかわすドラマも描ける。主人公が超常能力や現用兵器で戦うのではなく、あえて架空のロボットで戦うことの物語としての意味も生まれる。
その代表例として、設定や物語の妙で見せた2001年のTVアニメ『ZOE Dolores,i』第1話を紹介したかった。当時においても映像が弱かったことを除いて、決定版といっていい完成度を持っていた。人工知能をコミカルな存在にして、中年男を主人公にしたドラマを息抜きさせる逆転が楽しかった。それを設定倒れに終わらさず、きちんと敵ロボットの戦いと因縁まで第1話で描く。しかし、どうやら公式無料配信はされていないらしい。
他に主人公とロボットが異性のような構図になる作品として、2007年に『アイドルマスター XENOGLOSSIA』*5という作品もある。ただし私個人が序盤しか見ていないので、全体における第1話の位置づけは評価できない。
とりあえず、アニメ独自の位置づけをされた多数のメインキャラクターを、第1話内だけで紹介してみせたのは秀逸だろう。ただロボットアニメとしては、主人公とロボットが出会った場面で第1話が終わっていることが残念だ。個人的には、女性2人が格闘する部分をずらして、主人公がロボットに乗りこんで戦闘が始まるところまでは描いてほしかった。
逆にいうと、人格あるロボットは、戦わずとも存在だけで物語をひっぱることもできる。3度目のTVアニメ化にあたる2004年版『鉄人28号』*6が一例だ。
アニメオリジナルの展開だが、鉄人28号というロボットの存在を探して入手するまで長いのは原作と同じ。戦後日本が隠蔽しようとした暗部の象徴として、主人公と同じ名前を与えられたロボットが現れる。
ただしロボットが主人公のものになるのは第2話からで、これも冒頭に時系列をずらして主人公とロボットの活躍を描いている。しかし本編だけでもロボット自体の暴走というビジュアルで楽しませ、主人公との因縁や謎で興味を引き、それなりに楽しめる密度はあった。
もともと主人公が高い操縦能力と戦う動機を持っている場合もある。2013年の『翠星のガルガンティア』が有名だろうが、高橋良輔監督による1985年の『蒼き流星SPTレイズナー』という作品が先行していることを指摘したい。
翠星のガルガンティア | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
蒼き流星SPTレイズナー | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
ロボットのデザインから、素朴な周囲と特異な主人公の関係性、ロボットの人格が秘匿していた情報、対立に隠されていた真相まで、かなり類似する部分が多い。
これらの作品におけるロボットの人格は、主人公と周囲に壁がある状況において、孤立させずパートナーとなる役割を持つ。主人公だけではハードボイルドになりすぎるところ、ロボットとのかけあいで息抜きできるわけだ。戦闘中の説明台詞が不自然になりにくい効果もある。
知能を持つロボットはミリタリズムとも相性がいいのだ。『機動戦士ガンダム』の時点でも学習型コンピュータが搭載され、警告を音声で伝えるエピソードがあった。『フルメタル・パニック!』シリーズのロボットも、パイロットへ音声で情報を伝える。
第三者視点からロボットを描く究極の『FLAG』
一方、多視点という手段を使えば、ロボットという虚構兵器が存在する世界を、少し距離をとりつつ濃密に描くこともできる。
たとえば高橋良輔監督が1999年に手がけた『ガサラキ』は、現代社会にロボット兵器が成立しうるアイデアをつめこんだ怪作だ。物語としての破綻を恐れない濃密な情報量は、作品単独の完成度はともかく、関係スタッフが以降に参加した作品へ活用されていった。
ガサラキ | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
前半でロボット兵器の訓練シーンをリアルに描いたかと思えば、後半で超常的な技術を用いようとして主人公が能を舞う。そうした空想的な試みを、力を欲する人々が観察し、利用しようと解釈する。第1話は本筋が不明確なのだが、まなざす視点によって劇中世界の実在感は明確化される。
そうしたロボットが観察対象となるパターンの極北であり、アニメならではのリアリティを追及した極北として、高橋良輔原作および総監督による2006年のOVA『FLAG』がある。
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これはフェイクドキュメンタリーアニメであり、全カットが劇中カメラで撮影されたか、モニターに映し出されている。その素材を入手したジャーナリスト師弟の視点で物語がつむがれる。さまざまなジャンルへ応用できそうな方法論が試された実験的な作品であり、商業アニメとしてリリースされたこと自体が奇跡のような企画だ。
それでいて、連続娯楽活劇として成立させるための工夫が細部までゆきとどいている。タイトルにもなっている「旗」が主人公の写真によって象徴化されたことと、そのため争奪戦が発生していることが、開始わずか13分までに説明される。物理的な小道具を目標とすることで、軍事サスペンスとしての主軸が理解しやすく、最終回まで本筋に迷わずついていける。旧ディズニースタジオジャパンのアンサースタジオが制作し、老若男女人種を骨格レベルで描きわけているので、ドキュメンタリーらしく見えづらい演出なのにキャラクターが区別できる。
主人公の立場も斬新だ。ロボットアニメは戦争を舞台としていても、必ずしも好戦的な内容ではない。それどころか、しばしば主人公が反戦的であったり反軍的であったりする。それがロボットで活躍する場面と葛藤するドラマを生むわけだが、うまくないと設定と物語に齟齬を感じさせてしまう。主人公が軍人らしすぎると、『フルメタル・パニック! The Second Raid』で先述した問題が生まれる。そこで主人公をロボットに乗せないという逆転の発想で、矛盾を解消してみせた。
この破天荒な作品を既存のアニメジャンルにつなぎとめるため、ロボット兵器が象徴的に活躍する。ロボットの初登場は、弟子が師匠にわたした資料映像に出てくる短いカット。後半に入って、その映像を入手した弟子の心情が描かれる。
試験でガトリング砲を無人標的へ撃つだけの無機質な映像が、戦場写真をモンタージュすることで心をゆりうごかす情景となる。
OP映像ではモノクロだった写真が、ここで鮮明なカラーとなってつきつけられる。見つめる者の心象を反映するかのように。
これまで紹介してきた方法論とは逆転の発想だ。ロボットを活躍させるのではなく、想像力をもつ人物の心情をすくいとることで、映像表現としての密度が濃くなる。
逆に、弟子が現場入りして実際のロボットを撮影する終盤では、なめまわすように描写する。ドキュメンタリー形式のため、ほとんどが主観視点で、しかも1カットがひたすら長い。
22分8秒から22分30秒まで、全体像が映らないほど近くから回りこむように見せる。立体的なカメラワークの、手間のかかったカットだ。この主観視点の活用と、装甲表面の質感は、3DCGでなければ表現が難しかったろう。
この作品単独の実験で終われば、残念ながら商業的には失敗作ということになったろう。しかし、つちかわれたメカ表現技術やスタッフワークは先述の『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』に応用され、商業的な成功へとつながった。
ロボットと主人公の関係における現状と今後
第1話が秀逸な作品を見ると、主人公とロボットの関係が作品の方向性を象徴し、操縦するまでの展開が物語と対応している。
ロボットについて大別すると、人格を持っているくらい特別か、小道具としての固有性すらないか。ロボットをキャラクターとしてあつかえば前者、ロボットを舞台設定としてあつかえば後者となるだろう。もちろん『機動戦士ガンダム』のように、同じ世界で異なる方向性に動いたり、同居することもある。
そうした前例をふまえてこそ、新しい物語をつむげる。さまざまな成功や失敗を知っておくだけでも、新しいと思って失敗をくりかえすことを避けられるし、完成度があがりやすい。前例の一部分を組みあわせて新しくしたいなら、部分と全体の関係性を理解しないと、整合性が欠けてしまう。
ひとつのパターンを『機動戦士ガンダム』で完成させた富野監督に対して、同時期に仕事をつづけていた高橋監督が他のパターン大半にかかわっていることも偶然ではないだろう。そうして試行錯誤の蓄積をおこなったからこそ、『FLAG』のような領域にたどりつくこともできたのだ。
そこで今期の作品を分類すると、『アルドノア・ゼロ』も『白銀の意思 アルジェヴォルン』も、ロボットが小道具としての固有性すらないパターンに入る。それぞれ敵機と主役機は特別だが、いずれにしても固有の活躍をさせてはいない。そこから序盤におけるロボットアニメとしての課題も見えてくる。
まず小道具としての固有性がなくても、ロボットに世界を形作るくらいの完成度と新規性がいる。防御軽視と人間性の剥奪で命の軽さを表現した『装甲騎兵ボトムズ』や、余剰をそぎおとすことで人間性の象徴としての五本指を浮きぼりにした『FLAG』、そうした物語世界の完成度と物語上の隠喩が深く結びついたロボットと比べて、個性が不足している。
その延長で、全体として状況に対する主人公の反応が遅かったり、状況と行動に齟齬をきたしたり、といった問題が出てくる。『アルドノア・ゼロ』で主人公が状況に直面して行動するのは第2話の後半から。ロボット単独で物語世界を表現しないから、第1話も第2話も、前半が状況や設定の説明についやされて物語が動かない。『白銀の意思 アルジェヴォルン』は、主人公機の特異さが外見だけに偏っている。第1話で主人公が決断した対価というには主役機の存在感が不足したままで、第2話では逃げるルートと主役デザインのサイズが齟齬をきたしている。
主人公と物語展開のタイプが対応していない問題もある。どちらも訓練を受けていたり兵士だったり、いわば『装甲騎兵ボトムズ』タイプだ。しかし『アルドノア・ゼロ』は主人公が軍事力を利用しようと考えつくのを、第2話の結末まで待たなければならない。『白銀の意思 アルジェヴォルン』は『機動戦士ガンダム』タイプの物語展開をしたため、主人公の行動が立場に見あっておらず、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』よりも不自然だった。
もちろん今後の展開によって各作品の感想は変わっていくだろう。だが、だからこそ立ち上げについては残念だと思っている。
なお、主人公とロボットが運命的に出会って確信的に活躍するような作品や、整合性よりも情動を優先するような作品は、今回は語りづらいので言及しなかった。主人公がロボットと一線を引きつづける『FLAG』と好対照な方向性であり、今後の可能性は大きいだろう。
思いつかなかったのが、最初から主人公がロボットの力を望んでいる作品。破壊衝動を持った主人公がロボットを入手するという展開が、意外と見当たらない。ロボットという間接的な力で破壊するくらいなら、もっと直接的な能力であったり、大規模な破壊力を望むということだろうか。
意外と少ないのが複座型ロボット。しかしロボットに乗りこまず後方から指示を出す形式なら、ミリタリズムとも相性がいいはず。導入としては使いやすい設定だろうし、今後に追随する作品を期待したい。
*1:革命機ヴァルヴレイヴ | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
*2:機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス第1話までに主役機を活躍させられていない作品は、原則として注記でリンクをはる。以降も同じ。
*3:『機動戦士ガンダム』を嚆矢とする作品群。作品世界においてロボットを普遍的な存在と位置づけている物語や、SFや軍事のディテールを引用したロボットを指すことが多い。もちろんサブカルチャーの作品分類の常として妥当性に議論がつきまとうが、あまりに煩雑になるので今回のエントリでは暫定的に用いる。
*4:交響詩篇エウレカセブン | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス