法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ノマドランド』

 石膏採掘街が閉鎖された2011年初頭の米国。寒々しい土地で季節労働のようにAmazonの仕分け作業をしている中年女性ファーンは、古ぼけた自動車で生活していた。同じように定住せず自動車で寝起きする人々と出会い、別れながらファーンは生きている……


 ノンフィクションを原作とした2020年の米国映画。ヴェネツィア金獅子賞やアカデミー作品賞に輝き、クロエ・ジャオ監督は『エターナルズ』に抜擢された。

 無機質な一点透視で映されたAmazonと、雪の残る北米の荒野。美しい景色と貧しい生活。かつて教職につくほど知的なファーンだが、安定した職も居場所もなく、危険な放浪生活をしながらスペアタイヤを用意していない落度を見せたりする。
 さまざまな定住の可能性がしめされたり、公的な支援がしめされたりもするが、ファーンはふりはらってしまう。どのような立場の人間でも尊厳はある。そして同じように放浪生活する人々が協力しあう豊かさも米国にはまだ存在する……


 ……しかしファーンを見ていてどうしても、救われるべき人ほど助けをもとめることが難しくなる問題を感じざるをえなかった。つい最近の日本で支援団体をめぐって実感的な出来事があったばかりだ*1
 不安定な雇用形態をつづけるAmazonの問題も放置されたまま終わる。放浪者の連帯は社会への抵抗にはいたらず、雇用調整に便利な放浪者を存在させつづける。もちろんそれは意図しない結果だとしても、フリーターが賞揚された20世紀末の日本を思い出さずにいられなかった。
 あと、アジア系の女性監督の作品なのに、多くの放浪者はWASPではないにしても白人男女ばかりに見える。あまり劇中でアジア人や黒人が登場しないことが不思議だった。米国には移動労働者文化*2が昔からあると劇中で語られているが、その古さが黒人やアジア人の参入をさまたげているのだろうか。
 いずれにしても、たぶん良い映画なのだとは思うが、まだ豊かさや成長の夢を見られる超大国ならではの物語と感じられた。

*1:togetter.com

*2:この映画のレビューを読んで、「ホーボー」と呼ばれることを初めて知った。たまたまだが日本語の「方々」と音と意味が似ている。saebou.hatenablog.com