法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』伊藤計劃著

近未来の特殊工作員スネークを主人公にしたゲームシリーズ『メタルギア』から、ひとまずの完結編にあたるらしい『メタルギア ソリッド4』をノベライズした作品。ゲームはどれも未プレイで、せいぜいPVなどを見かけることがあった程度。
主人公の因縁と旅の終わりを描く作品だけあって充分に完結しているし、ゲーム未経験でも人間関係が理解できなくなるほどではない。ちゃんと戦闘では知恵をはりめぐらせて伏線を回収し、SFガジェットから生まれる新たな未来図を描き出し、登場人物がひとつの結論にいたる。いったん終わった後、残されていた不合理だったり説明不足だったりした部分をきっちり始末するエピローグが二重にあり、読後感もすがすがしい。
近未来SFアクション小説としてサービス充分で、魅力的な設定やキャラクターがおしげもなく登場し、作者のオリジナル作品よりも楽しめたくらいだった。


ただひとつ疑問だった点として、あまりに人称と視点が混乱していたこと。一人称の語り手「ぼく」が心情や思想を語る地の文と、主人公をはじめとしたキャラクターの気分や回想が、空白行をはさむことなく交互に書かれていたりする。
当初は楽しく読みながらも、とまどいをおぼえた。ひょっとして、キャラクターごとの心情が原作ゲームでは説明されていて、ひとりの語り手に視点をおく小説形式と衝突したのかとも思った。
しかしそれも読者に語りかける二人称「きみ」が出てきて、意図的であることが途中から理解できた。そして終盤において、全ては語り手が一人の読者へ向けた、稚拙ながら熱情にあふれた物語だったことが判明する。
意図的に小説表現を解体しているという意味では、作者のオリジナル小説に通じる。ゲームノベライズという制約の中での、面白い試みだった。