法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』がんばれ!おばけハウス/ロビンソンクルーソーセット

メインスタッフが『クレヨンしんちゃん』と同じくサブタイトル画面にクレジットされた。動きのない絵ではあるので、これはこれで理解できる。
ジャンケンは待望のしずちゃんだったが、期待よりも中途半端。もっと原作に出てくるような変顔をしてくれるかと期待していた。


「がんばれ!おばけハウス」は、いいがかりで怒ってきた神成さんに対して、肝試しの予行演習をかねて驚かせようとする。しかしドラえもんひとりで驚かせることになり……
公式サイトでは原作がクレジットされていないが*1、完全なアニメオリジナルではない。スネ夫の弟の初出として有名な短編「お化けたん知機」をアレンジしたものだ。
お化けの種類やデザインも、怖がってもらえないことを悲しむお化けも、驚かそうとして逆襲される展開も、まったく同じ。違うのは、「お化けたん知機」は世界観が固まっていない初期作品のため、実在するお化けを探しだすファンタジー設定が基盤だったこと。
『ドラえもん(2)|藤子・F・不二雄 大全集』 - 法華狼の日記

このエピソードでは「お化け」が最初から実在しており、秘密道具は探すためだけにつかう。古井戸にガイコツや幽霊やのっぺらぼうが住んでいて、最近は人間が驚かなくなったと愚痴をいいあってたりする。現在の世界観では、UMAやUFOやエスパーは実在しても、完全なオカルトは秘密道具の助けではじめて姿をあらわすようになっていて*6、このエピソードだけ違和感が大きい。

現在の作品イメージに合わせるため、お化けそのものを秘密道具として出す設定に変えたのだろう。また、驚かす対象が神成さんだけなので、骨を犬にやる展開もアレンジされている。
そうした原作からのアレンジを横において本編そのものを評価すると、寺本幸代コンテのホラー表現からギャグ表現への振幅や、酒に酔った状態にすることで神成さんのキャラクターを壊さずやりたい放題させる展開の楽しさはあって、全体として悪くはなかった。


「ロビンソンクルーソーセット」は、のび太しずちゃんとふたりきりになるため、無人島でサバイバルを楽しむ秘密道具を使う。しずちゃんのび太を信用しないが……
ほぼ原作に忠実な内容で、寺本幸代コンテの素直なうまさがわかりやすい。ロングショットを多用して、無人島の浜辺や森林の広さを印象づける。
ちなみにリニューアル後の2007年にも安藤敏彦コンテでアニメ化していた。霧にまぎれて無人島へ向かう情景などは良かったが、リニューアル前のデザイナー富永貞義が作画監督をしていたこともあり、特に冒険心をそそられることもない普通のエピソードという印象だった。
物語としては、秘密道具をつかった詐欺が最後のぎりぎりまでうまくいく展開は珍しい。しかしヒーロー願望を仮想現実でかなえる物語と考えると、かなり現代に通じる普遍的な内容ではある。けっこう当初のしずちゃんが毒舌だったり、最終的にのび太に心を許していくツンデレ展開も原作通り。
ただし原作はオチ以外は一方的に騙すだけだったが、今回は無人島で獣に襲われる展開を足している。のび太が直前の漁で服を濡らしてしずちゃんと同じく草の服を着るというアレンジもあって、対等な関係で秘密道具の力だけではない勇気を見せたことになった。原作のままだとしっぺ返しが軽いのと、冒険をへてもレジャー的な軽さしか残らないので、見ごたえを作るという意味では良いアレンジだったと思う。