法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ガサラキ』の戦車や戦闘機が遅いなどと主張するフシアナは、カタログスペックに騙されてミッドウェーで敗北するタイプ

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当時でも破格の作画枚数を投入し、『勇者王ガオガイガー』で集まった優秀なメカアニメーターが続けて参加し、現在の目でもTVアニメとは思えないほど安定したメカ作画が楽しめる。後述する第三話においては、主にスーパーロボットアニメで活躍する山根理宏がメカ作画監督を担当し、激しいアクションと精緻なディテールを両立させていた。
さらに映像ソフト版および配信版では多くのカットが作り直されており、後述の第二十一話は放映版よりも作戦がわかりやすく、第二十四話のアクションはさらに激しく、第二十五話は映像面において半分別物になっている。
もちろん以下に説明する部分は、放映された作品を見るだけでも理解できる範囲のことであり、本文に後づけ情報はふくめていない。


さて、『ガサラキ』において二足歩行兵器TAと戦車が初めて競ったのは、第二話「序ノ舞」のことだ。
しかし、そこでおこなわれたのはTA開発企業の「豪和インスツルメンツ」が用意したデモンストレーションにすぎなかった。あくまでTA売り込みのためにおこなわれた競争なのだから、描かれた性能差がそのまま実態を反映しているわけがなく、作中でも本当に性能差で圧倒したかは濁している。
どのような兵器でもカタログどおりの性能を出せはしない。戦場とは不確定要素が多いものであり、カタログにのせるような状況で戦えることは滅多にない。


次に第三話「天気輪」では、二足歩行兵器MFの実戦が初めて映像として描かれた。舞台は、比較的に遮蔽物の少ない荒地。ここでMFは米軍戦車部隊と戦って壊滅させたわけだが、これもまた性能差がそのまま反映される状況ではなかった。
まずMFは戦車部隊の到着と停止を待ち、奇襲攻撃をかけている。MFが勝利した要因は、作戦行動の情報を入手していたことにある。このことは結末の描写からもはっきりわかる。部隊壊滅を知った米軍司令官は、まず作戦がもれていたことに対して疑問を発し、敵国が多国籍企業「シンボル」の支援を受けているという報告を受ける。二足歩行兵器の存在はあくまでシンボルの巨大さを表現する一要素であり、報告を受けた米軍司令官はうさんくさげな口調で鸚鵡返しする。
さらに先述したように、いったん戦車部隊は停止していた。それも都市部へ奇襲するため、夜間に密集していた。MFの攻撃を受けたのはこの時だ。その奇襲に対応するため走行をはじめた瞬間に狙い撃ちされたのだから、そもそも戦車が走破能力を発揮できる場面ではなかった。実際に映像を見れば、最初は戦車同士の追突などを起こしつつ、時間が経過するにつれて走行しながら射撃する能力を見せている*1
何より、この物語において二足歩行兵器は秘密裏に投入されたばかりの、まったく新しい概念の兵器である。現地の戦車部隊は、歩兵の待ち伏せ攻撃と考えていた。そこで後方に戦車をさがらせ、歩兵輸送車を前進させて降車戦闘をおこなわせようとした。そして暗視装置に人型の敵が映った瞬間に降車させようとして、そのサイズの違いに驚いてあわてて降車中止を命じる。しかし前進していた歩兵輸送車にMFが接近し、撃破していった。歩兵輸送車は主力戦車より比較的に装甲が薄いものだ。そうしてあたかもミッドウェー海戦のように、想定のずれが戦車部隊の壊滅をもたらした。
仮に、戦車部隊がMFと正面から戦えばどうなっていたかというと、これはほぼ戦車の勝利で終わるだろう。映像を見ても、MFが当初におこなった攻撃は前方の主力戦車に命中したが、正面装甲にはばまれている。MFの攻撃が主力戦車に甚大な被害を与えることができた場面は、曲がるロサットで戦車後部のエンジンを破壊したり、先述したように戦車同士の衝突だったり、開けていたハッチから攻撃したりと、二足歩行とは関係ない部分がほとんどだ。


そして戦車との正面からの戦闘は、序盤だけ。後で戦闘機と二度ほど戦闘して勝利しているが、それも偶然と奇跡のたまものでしかないことが明確に描かれている。
たとえば第七話「帰還」では輸送機に吊るされて戦闘機を撃墜しているが、これは輸送中に覆面戦闘機に攻撃されたという特殊な状況にしいられた戦闘だ。そもそも吊るされている状況なのだから、せいぜい手足や火薬の反動を利用した簡易砲塔という位置づけだ。
米軍基地に単独突入した第二十一話「疾走」にいたっては、TAで戦闘機に勝てるわけがないと上官が何度も主張し、戦闘機が離陸する前に攻撃するよう指示。しかし一機だけ離陸した戦闘機に翻弄され、脚部まで破壊されたところを、戦闘機の視界を焼くことで奇跡的に勝利する*2。さらにここでも米軍側のやりとりで、当初にTAを装甲車と誤認したため戦闘機の攻撃が命中せず、対応が遅れたことが明示されている。


ガサラキ』は一貫して、二足歩行兵器を基本的に現行兵器より劣るものとして描いている。TAもMFも、あくまで限定された状況に対応した兵器という位置づけだ。そのうえで、そうした規格が通用しない状況を用意し、前線だけでは勝敗が定まらない広がりある戦争を描いた。
前半で描かれた中東での戦争は、どれほど二足歩行兵器が活躍しようと、シンボルが支援をとりやめて、米軍の勝利で終わる。後半ではTAとMFが本来の仕様目的で戦うが、それは都市部の一建造物を舞台とした秘密裏の特殊作戦にすぎない。政治決着したことにより、国家間の公的な戦争はおこなわれないまま終わった。
もっとも中盤以降は、極右で夢想主義で無政府主義な思想家が敵も味方もひきずりまわして勝ち逃げするという、いささか一個人の狂的な魅力によりかかった作劇であった。途中から登場したキャラクターの重力に作品全体が飲み込まれてしまい*3、さまざまなSF設定を開示しつつ主人公が決着をつけた最終回も、まるで精神世界で戦っただけの消化試合みたいに受容されてしまった。とはいえ、前線の活躍だけで大局の決着がつくわけがないという『機動戦士ガンダム』以来のテーゼを描いた極北の作品であることに変わりはない。
ちなみに、後に同じ監督と脚本家が手がけた『FLAG』は、逆にラスボスにあたるはずの指導者が、国際的な動きに対して身動き一つしないまま物語が終わる。物語の根幹を空虚にすることで全体のバランスが良くなりつつ、アンチキャラクタードラマとして完成されていて、これはこれで一つの極北であった。

*1:命中はしていないが、これはMFの戦車とは全く異なる機動力のためだけと考える必要はないだろう。現実でも実戦における行進間射撃の命中率は高くないはず。

*2:公式サイトでも「追いつめられたユウシロウはここで超人的な戦闘能力を発揮」と、パイロットの特異さを勝利の理由として記述している。http://www.gasaraki.net/story/story_06.html

*3:映像ソフト付属のブックレット等で明かされているが、西田啓というキャラクターは当初は登場予定がなかった。主人公の敵が長兄では力不足のため、より強い敵を設定しようとして生まれたという。それがあまりに強すぎたため、主人公もその長兄も影響下にとりこんでしまったわけだ。