ひさしぶりの『ドラえもん』は、数年ぶりの大晦日SPでもある。2012年の映画を抜いても新作4話が1時間強あるので、SPを見たという満足感はあった。全体として作画も良好。
「宝くじ3億円大当たり」は、原作初期から。宝くじという題材は季節ネタでもある。のび太の欲望を抑えていたドラえもんが、いつの間にか欲望全開になるあたりが原作の面白味だった。
今回のアニメでは、ドラえもんが途中で改心しなおし、のび太も考えを改める。しかし、単に良い子へ改変しただけでは終わらない。当たりくじをパパが購入した幸運に共感しやすいし、そのまま喜びが失われるオチが際立った。さらに、季節表現として描かれていた募金活動に宝くじをやっていたというアニメ独自のオチで、後味もいい。
映像面で、季節感ある街頭が描かれていたところも良かった。オチの伏線を風景にまぎれこます必然性もある。
「ドラミとおはなしバッジ」も原作初期から。孫の孫からプレゼントされるという導入で、これも年末らしいスペシャルさを感じさせる展開。
ほぼ忠実にアニメ化しながら、アニメオリジナル要素として、ドラミちゃんが登場する。直後に放映する映画で登場するから、そのキャラクター説明のような意味があるのだろう。
原作はオチを示したコマで余韻を断ち切るように終わっていたのが印象的だったが、今回のアニメではオチの意味を説明する。これは読者が手を止めて考えることができるマンガと、リアルタイム視聴を前提としたTVアニメとの違いを考慮すれば、しかたない改変ではある。
「アンラッキーポイントカード」は、今回でひとつだけ物語も秘密道具もアニメオリジナル。不運なことが起こるたびにポイントがたまり、そのポイントを使うと幸運がおとずれるという秘密道具が登場する*1。
地球に接近する隕石に3DCGを使用し、無駄に力を入れているところが良いギャグだった。のび太だけがポイントが急にたまった真相を知らず、それでたまったポイントを使った結果も知らず、ただただラッキーを待ち続ける。その絵面も、良い感じに脱力感あって印象的。
中盤のツイストで、あえて不幸を呼びこむ秘密道具を使ったところも、物語の密度を濃くしていた。
「ツチノコ見つけた!」は原作の中前期から。あまり蛇っぽくない、独特のツチノコデザインも原作通り。
しかし説明を足してはいたが、ツチノコというUMAの位置づけは、最近の幼い視聴者に理解してもらえるかどうか。
また、個人的には、ツチノコが存在して当然という展開に昔は違和感をもっていた。しかし改めて見ると、実はタイムループ的にツチノコが発生しているので、ドラえもんがいる世界での歴史と考えれば納得できなくもない。
『ドラえもん のび太と奇跡の島〜アニマルアドベンチャー〜』は、評判通りに今一つな内容だった。
映画を支えるには要素のひとつひとつが小粒で、それを補おうとしてか雑多につめこみすぎている。あくまでTVSPの延長にあるような、起伏のない散漫なつくり。前半で誘拐されたゲストキャラクターが、終盤まで言及されず忘れられているくらい、無駄も多い。
親子関係を正面から賞賛しつづけるため、世界観が日常から飛躍しないまま終わったことも、好みにあわなかった。映画での親は、子供が非日常を冒険した後に待っているだけの存在で充分だ。
架空の神秘的な昆虫として描写された「ゴールデンヘラクレス」や、絶滅動物を未来人が保護している島になぜか住んでいる「ロッコロ族」など、由来があやふやな設定が多いため、SFらしさもない。
たとえば、「ロッコロ族」もネアンデルタール人のような絶滅した人類として保護されているとか、「ゴールデンヘラクレス」はカブ太の活躍した情報が未来世界へ誤って伝わっただけとか、もっとSFらしい設定に整理できたはず。
せめてネーミングがそれらしければ許せたかもしれないが、「宇宙パワー」や「生命エネルギー」のような、SFマインドを萎えさせるような台詞回しばかりだった。
敵が単なる犯罪者という設定も、アニメオリジナル映画もふくめて過去から何度も使われており、どこか新味はほしいところ。
『恐竜』では序盤から対立と交渉を続けて緊張感をたもち、『日本誕生』では終盤まで正体を隠して意外性を演出した。『ドラビアンナイト』は、ゲストキャラクターが実質的な主人公だったので、敵が狡猾なだけの現地人でも楽しめた。
今作なら、絶滅動物を保護区から解きはなって自由にさせようとする、いわば狂信者でも良かったのではないか。『T・Pぼん』からの引用ではあるが。
さすがに作画は良くて*2アクションもまんべんなく存在する。クライマックスでメカと巨大生物が格闘するあたり、娯楽大作らしい映像は見せられている。ただし活躍は物語の終局で、敵も小物で緊迫感が少なく、あまり緊迫感ある状況でもないので、興奮はできなかった*3。
他に良かったのは、のび太とそっくりな勇者「ダッケ」の設定。既存の秘密道具を組み合わせて、ちょっと意外な展開でダッケを誕生させた。この設定で、映画導入部での御都合主義的な人物の行動に納得ができるようになり、映画全体の主題も補強された。