法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』アリガターヤ/ツチノコみつけた!

「アリガターヤ」は、のび太ジャイアンスネ夫にランドセルを押しつけられ、誰にも感謝されないことをなげく。そこでドラえもんが何をしてもありがたがられる秘密道具を出すと……
2007年にアニメ化された原作短編のリメイク。構成は原作とほとんど変更がなく、意外なことに描写の追加もほとんどなく、のび太の愚行とそれが感謝される描写を省略せず反復していく。
どのような愚行をしても横車を押しても崇拝される描写に、原作では単調さも感じていた。しかし涙を流してありがたがる人々をアニメで念入りに描かれると違った味わいが出てくる。
これは愚かな宗教団体や政治組織などで現実に存在する光景だ。黒い烏を指して白いと主張して周囲に同調させる描写は、歴史にも類例があって故事成語になっている。
鹿を指して馬となすとは - コトバンク

秦の趙高(ちょうこう)が、自分の権勢を試そうとして、鹿を馬であるといつわって皇帝に献上した故事から》人を威圧して、まちがいを押し通すことのたとえ。

そうして個人を信奉させる全体主義の風刺エピソードと気づけば、のび太と周囲の行動ひとつひとつが不条理ホラーとして完成度が高い。信奉を試す行為の単調な反復、それ自体が出口の見えないファシズムの情景だ*1。いつものような偶然だよりの逆転オチも、そのような事故でしか解決できない恐ろしさを感じてしまった。
ただ、冒頭でジャイ子に出会うがランドセルを運ぶことを断られるアレンジは、最近のキャラクターと比べて違和感あるので不要と思った*2。つづけて犬にランドセルを運ぶことをたのむ描写は、きちんとオチに対応しているのだが……


ツチノコみつけた!」は、2018年アニメ化版の再放送。劇場映画の制作のためにTVの現場を休ませているなら、それはそれで良いとは思うのだが。
hokke-ookami.hatenablog.com
ただ、新種の発見というネタが今年の映画の宣伝もかねているのかな、と思った。

*1:2007年版はのび太の暴走と周囲の信奉を過激化していったが、今回のようにのび太は無表情で無感動なほど、不条理ぶりが浮かびあがる。

*2:原作ではスネ夫の弟のスネツグが登場している。養子にいって成長する前の幼いスネツグの行動としては、スネ夫を過剰に真似るように意地悪をしても違和感はない。