法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

花咲くコリア・アニメーションの各作品感想

花開くコリア・アニメーション2012|Korean Independent Animation Film Festival
毎年春に開催されているという自主制作韓国アニメイベントから、いくつかの作品が無料配信されていた。
- YouTube
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00005/v12176/
12月31日の深夜まで配信の予定なので、残り時間はほとんどない。書きためていた感想をあげるのが遅れてしまった。


『EATING』食べて走るだけが人生か。サラリーマンの淡々とした日常を、内面によりそって描く。大平晋也フォロワーかと思うほど、人体のメタモルフォーゼが楽しい作品。手描きならではの味わいがありつつ、枚数を使っただけではない基礎的な画力を感じさせる。
『最高の食事』動く油絵のような作品。ガラスに絵の具を塗る方式を使っているのだろうか。動きはなめらかで、次々に食品から食事へメタモルフォーゼする映像は楽しい。しかし結末の、羽虫がたかるセピア色の食事風景の意味がよくわからなかった。下品な食事でも主観では最高、という意味だろうか。
『公共マナー』擬人化された2頭身の動物たちが、地下鉄でたがいのマナーの悪さへ怒りをあらわにしていく。前半は狭い空間でのトゲトゲしい日常芝居で興味をひき、後半はガチの格闘戦で予想外に楽しませてくれた。にくたらしい動物デザインは完成度が高く、背景美術のデフォルメと統一感もある。アクションでは、リミテッドアニメらしい動きの作画と、格闘ゲームのようにしっかり組み立てた殺陣で楽しませてくれた。劇中映画の看板で物語の方向性を予感させたり、EDクレジットが路線図を模していたりと、枠組みもシャレている。ひとつの手描きアニメ作品として、自主制作とは思えないほどパッケージングが完成されていた。だが、ピカチューのパロキャラはいいのか。
『日常の中の生』線画で描く、街角のポートレート。車や人物がところどころ半透明だったり、途中でちょっとしたアクシデントが描かれたりはするのだが、心をひかれるところが特に見当たらなかった。どこを評価されてインディ・アニフェスト2010KIAFA特別賞をとったのか理解できない。
『風が通り過ぎる音』都市開発からとりのこされた貧民窟で、退去勧告を配って歩く男と、遊んでいる少女が描かれる。日本の商業アニメに近い映像。適度に歪んだ背景美術が、いかにも貧しい住宅街らしい猥雑さを作り上げている。中間色を多用した柔らかな色使いもいい。ひとつの小さなすれ違いを描いただけの物語だが、都市開発の痛みと葛藤が、それっぽい映像で描かれているので、それなりの満足感あった。
『Thembi’s Diary』エイズにかかったアフリカ人の少女が残した音声。それにアニメ映像をつけたものらしい。淡々とした語り口調が素晴らしく、エイズにかかり偏見にまなざされながら夫に肯定され、子をなす姿が美しい……が、これはモデルの素晴らしさであって、あくまでアニメは挿絵のようなもの。イメージを助けて邪魔しない良さはあるが。
『パパの子守唄』父が眠り、母が不在な夜の家で、ひとりになった幼女が恐怖に襲われる。Aプロっぽいデフォルメされた絵柄でよく動く。良い意味でNHK教育でやるようなアニメ。それでいてホラー演出は本気で驚かせにかかっていて、登場するクリーチャーに生理的な嫌悪感もある。墨と筆を使ったようなモノクロ・パートカラーで描かれていることも、いっそう恐怖を盛り上げた。韓国語がわからなくても楽しめる佳作。
『Mom』母親が子を産み育てていく情景を、1人のキャラクターをとおして3DCGで描く。キャラクターはデフォルメされているがモデリングもモーションもしっかりしており、空気遠近法を活用した背景は実写のよう。韓国では手描きより3DCGが発達していると聞くが、インディーズでピクサーと比べられる映像を作り上げたことには驚かされた。
『猫我(ミョア)』典型的な自主制作アニメで、かなり見づらい。1コマで1枚ずつ描くために静止すべき部分がブレることを逆手にとって、服などの模様が動き続けるアイデアが面白かったくらい。他は、適当なデザインの人体と、実写を引き写したような猫の対比に工夫があるくらいか。
『No.1009』荒涼とした風景を黙々と歩くロボットを、3DCGで描く。モーションには、重量感があるだけでなく、リミテッドアニメのような小気味よさもある。機械らしい質感でいながら、クライマックスでは生理的な嫌悪感も表現されていた。ひとつひとつの障害をクリアしていくゲーム的な描写もまずまず。物語としては、擬人化した機械でウェルメイドなドラマを描いたにすぎないが、まとまった掌編として悪くない。
『ある一日』筆のタッチを活かした絵を動かし、寝たきり老人の一日を描く。いかにもアートアニメーションらしい絵柄に見えて、人物の立体的なデッサンは現代アニメのようでもある。無防備に家事を行う女性の色気や、無邪気に部屋へやってくる孫を見せていく前半から、てっきり老人の主観を描くだけの内容かと思った。それゆえ、意外なジャンルと明かす後半の展開に驚かされた。異質なモノをコマ落ちしたような異質な動きで描いたことが、アニメ表現として面白い。そうして別ジャンルへ移行したまま断ち切るオチも、誰も老人のおこないを知らない、ひとかけらのせつなさを感じさせて、意外と深い味わいがあった。
『ダーツ』ダーツ競技の旧チャンピオン宅で、衰えたチャンピオンと蜘蛛の死闘がくりひろげられる。これも3DCG作品で、デザイン全般はデフォルメされている。蜘蛛の巣がダーツの的に似ているというだけの一発ネタで、『トムとジェリー』な追いかけっこを展開。単純に見ていて楽しく、結末もスカッとする。古きカートゥーンを思わせる、良きエンターテイメント。
『Birthday Party』妻の誕生日を祝おうとして奮闘する老人の悲喜劇を3DCGで描く。デザインはこれまでの作品で最も単純。ケーキもカクカクなくらい。テクスチャの質感はいいので、意図的なのだろうが。しっかり練習しながら裏目に出ていく本番は楽しく、オチは心地良い。クレジットを利用したメタネタも面白い。ただ、わざわざアートアニメで見せるような内容でもないか。
『思い出という名の歌』セル画に似せた3DCGアニメだろうか。歌に乗せて、ライブ場面とモンタージュしながら、音楽家をめざす少年と少女の成長をきりとっていく。スタジオ4℃のようなアニメという感じ。歌のPVとしてはソツのない作りだが、普通に出来すぎていて、本当にこれはアートアニメとして作られたのだろうかと疑問をおぼえた。
『憂うつな角砂糖くんの話』いかにも手作りで自主制作した風のアニメーション。紙にそのまま書いたようなフィルターをかけているように見えるので、安っぽいのは意図的だろう。しかし、ほとんど線だけで描かれると、角砂糖といわれても立方体にしか見えない。液体に入れられても溶けず、野菜とともに煮込まれても形が崩れないことから、どうやら『みにくいアヒルの子』的な、実は角砂糖ではなかったというオチらしい。だが、そうした解説がないので、私の理解が正しいのか確信が持てない。
『ちいさな恋人』同棲している恋人が、なぜか小人として描かれる、手描きアニメ。ほとんどパートカラーだが、線は整理されていて見やすい。ほのぼのした作品のようでいて、中盤で蜘蛛と戦うアクションもある。しかし、第14回文化庁メディア芸術祭上映作とのことだが、他の作品と比べて突出して良いとは感じなかった。テーマが夫婦や家族の愛らしいところが評価されたのだろうか。
『旅行カバン』旅行鞄は青年のすごした過去を象徴しているのだろうか? ポスターのような絵柄だが、人体の動きはところどころロトスコープのようで、カメラの揺らし方やピントの合わせ方などで現代アニメらしい技法も多用されている。yamaのようだといえば、作画オタクなら理解できるだろうか。
『Kopi Luwak』大学受験を前にして進路に悩む17歳の少年少女。少年はヘヴィメタバンドを抜けることを少女に告げ、少女は夢を捨てることを嫌悪する。脚本、絵コンテ、キャラクターデザイン、作画、背景美術、撮影効果、どれも日本の商業アニメと比較して遜色がない。ちゃんと笑いどころも用意しているし、大人の目線なども存在している。23分以上の尺を使って、すぎさる直前のさまざまな青春の痛みが描かれた。もし単品のOVAとして発売されても、充分に楽しめそうな作品。
『金魚鉢』よたよたした描線の、やや技術が追いついていない、いかにもな自主制作アニメ。成績不振を母親からなじられる少女の鬱屈を描く。幼年時代に絵の巧さを母親から誉められた記憶を大事にしているが、現在では学業の成績しか認められない。それでも少女は絵を描こうとする。こういう自意識のありようは国家を問わず普遍的なものなのだな、と感じる。この物語を、自主制作アニメという商業的には結果が出ない媒体で発表する面白味もある。金魚鉢にとじこめられた金魚と自分を重ねる少女の自意識や、最後に解放される一人と一匹という結末など、モチーフの活用もまずまず。
『9人の夫をもつ女』祖母が孫娘に語る御伽噺が、やたら古めかしい手法で描かれる。現実で語っている場面は切り絵アニメのようで、御伽噺の場面は影絵アニメのよう。9人の夫を比喩的に食い殺していった妻の御伽噺が、最後の最後にとんでもないオチへ展開する。2分に満たない作品なので、身がまえる間もなく超展開に驚かされた。独特なアニメ技法を活かした一発ネタとして楽しい。
『Six Steps』何もない部屋で潜望鏡に監視されている双子の少女を、グラデーションなしのモノクロで描く。古き良き『ガロ』のような、不穏な空気だけが流れるシュールな作品。BGMを排した背景音など、ほぼ完成されている。


全体を通して見て、とにかく3DCG作品の高いクオリティには驚かされた。日本で手描きアニメが発達し、韓国では3DCGアニメが育っているとは聞くが、そのまま実写映画のVFXにも使えそうな質感や動きとは思わなかった。
手描きアニメでも、半分くらいの作品は全体に見どころがある。特に『公共マナー』と『Kopi Luwak』は、このクオリティが保てるなら、日本の商業アニメと伍する力があると感じられた。『Kopi Luwak』はYOUTUBE配信で再生数が最も少ないが、おそらくサムネイルのせいだろう。
『パパの子守唄』『ある一日』『9人の夫をもつ女』は、自主制作アニメならではの楽しみがあった。それぞれ一種のホラーとして楽しめる。