法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

洞窟壁画アニメ説

動物の足が複数描かれているところが残像ではないかといい、たいまつの炎を動かして動いているように見せたという説を唱えているのだが……
フランスの壁画がアニメーションだった可能性あり。 – MAASH

世界最古のアニメーションは近代に生まれたわけではなく、壁画(旧石器時代)のころから描かれた可能性が出てきた。
フランスの研究者の最新の研究によると、フランス全土の洞窟壁画が、連続した動きのある絵であることが判明したのだ。


たとえば写真はフランスのショーヴェ洞窟の壁画で、パイソンのような動物が描かれているが、走っていることを示すかのように8本の脚が描かれている。
脚が残像のようになっているのだ。
一つの絵にいくつもの動物を描いている場合、たいまつの炎を動かすことで、動いているように見せる技術も使っていた可能性がある。
まるで洞窟の中は実験的ミニシアターだ。

追記
・デイリーメールの記事は23日アップ
・炎のちらつきによってアニメーション的見えるかもしれない
・先史時代の人々だが、残像による影響を理解していた可能性あり
・すでに映画の発明を予見していた
・研究者は12のフランスの洞窟から、53のアニメーション的な壁画を発見
・頭をふったり、しっぽを振ったり、疾走したりする
・南西フランスのラスコーはアニメ的な壁画が多い

しかし、これは少し留保したい。そもそもラスコー壁画がアニメーションの先駆的な表現という説は古くからあり、残像を描写する「異時同図法」と考えられていた。アニメーションの起源を原田浩氏が論じた記事でも詳しく言及されている。
http://bunka.gakuin.ac.jp/cmc/critic/harada/002.html

これらの壁画に描かれた動物は、複数のポーズやシーンの絵が、同一画面内に描き込まれているように見える。もしこれが意図的であるとするならば、スピード感溢れる動物の動きを1枚の絵の中で表現するための残像表現、異時同図法(複数の時間を1枚で表現する方法)に相当する。像をダブらせて描く方法は、現代の漫画やアニメーションでも多用されている手法である。
壁画の輪郭線の筆致は、まるで本物の筆で描いたかのように滑らかで、筆圧を思わせる微妙な強弱が付けられている。動きの伝達だけでなく、物体を輪郭線により表現する行為がすでに始まっている。

西暦元年前後に描かれた古代絵文書の中にも、動いた感じを表現するために、複数のポーズの人物を1枚の絵の中に描き込んだり、集団舞踏の躍動感を表現するため、複数の足跡の絵を1枚の絵に描きこんだりしたものがある。

私の持っている情報でも、1995年のフランス科学雑誌『SCIENCE & VIE』でも、前年に発見された3万年前のショーヴェ洞窟壁画をさっそく特集し、「動画の発明」という見出しで7本足の野牛図を紹介していたという*1
デイリーメールは英国のタブロイド紙であることから、旧聞に属する情報を誇張して記事にしたてたと考えていいだろう。

*1:『子どもたちに夢と平和を―アニメーターからの手紙』10頁。