法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「第3回アニメレビュー勉強会」のテーマは『ドラえもん のび太と鉄人兵団』だった

アニメレビュー勉強会はアニメ評論家藤津亮太主催。プロだけでなくアマチュアも参加可能。
これまでも個人的に好みな作品がテーマにされていたが、まさかリメイクしたばかりとはいえ、この作品が選ばれるとは。


藤津亮太公式ブログの結果発表エントリで、各優秀レビューを読むことができる。リメイク映画のTV放映直前に上げられていれば、もっと注目が集まっただろうに、やや遅れたのが残念。
藤津亮太の「只今徐行運転中」:第3回アニメレビュー勉強会結果発表! - livedoor Blog(ブログ)
第1位は、SF考証の誤謬ととらえられがちなタイムパラドックス描写を、考証に反してまで強調したかったのだと評価してまとめたもの。なるほど手本のようなレビューだ。
第2位は、藤子Fマニアの常識を書いているだけなので、新味は感じられなかった。むろん、マニアに常識的なことだからといって、媒体にあわせて文章化することがたやすいわけでもない。鏡面世界の楽しいサバイバル描写をゾンビ映画になぞらえた箇所など、首振り人形のようにうなずくことしきりだった。
第3位が、個人的には最も面白い。ロボットアニメの斜陽期に提示された作品だからこそ、正面から侵略SFとして展開したのだという指摘。ただ、関連しそうな作品への言及が雑多でまとまりがないところが難かな。こういうペダンティックさが『SFマガジン』のレビューらしさでもあるが。


参加者による勉強会の感想もzeroes氏が書いている。
「第3回アニメレビュー勉強会」に参加して - 移転跡地
作品タイトルに着目して、原作者のロボットアニメに対する距離感を指摘していくレビューも面白い。
「ドラえもん のび太と鉄人兵団」 - 移転跡地

ドラえもん のび太と鉄人兵団』は、劇場版『ドラえもん』シリーズの第7作にあたるが、これまでの6作と明確に異なっている点がある。タイトルだ。『のび太の恐竜』に始まるシリーズは、いずれも「のび太の◯◯」というサブタイトルで統一されてきた。それが本作で初めて「のび太と◯◯」というフォーマットが採用され、以後のシリーズでは“の”と“と”の混在が現在まで続いている。まあ、些細といえば些細な話なのだが、なぜここで統一感をみすみす放棄してしまったのか、奇妙といえば奇妙ではないか。

この着眼点から論を展開し、クライマックスに主人公と巨大ロボットが不在という物語の歪さが生まれた理由を指摘する。一人の『ドラえもん』好きとして面白く、読んでいて説得力も感じた。
ただし、勉強会ですでに指摘されているかもしれないが、一部に異論も述べさせてもらいたい。
ドラえもん』には『鉄人兵団』より先に、原作短編「大あばれ、手作り巨大ロボ」という巨大ロボットが登場するエピソードがあることは注意しておきたい*1。操縦型巨大ロボット「タイタニックロボ」を人里はなれた雪山で部品ごとに組み立てていく物語であり、巨大ロボットの暴走や別離もふくめて『鉄人兵団』の雛形になったと思える内容だ。zeroes氏も『のび太の恐竜』を引いて指摘しているように、『ドラえもん』の大長編は短編に雛形があることが多い。ちなみに、リニューアル後にアニメ化された際には、『鉄人兵団』リメイクを監督した寺本幸代コンテ演出だった*2。また、『機動戦士ガンダム』のパロディであり、特にプラモデルとして登場することが多い「バンダム」も、『鉄人兵団』以前から短編に登場している*3
ロボットアニメに対して距離感があるという指摘自体には説得力があるが、原作者が巨大ロボットに興味がないかというと、必ずしもそうではないだろう。どちらかというと、組み立てたり操縦したりする巨大ロボットそのものの面白味に興味があって、戦闘への興味が薄いというところではないかと思う。

*1:http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/6159/d-23.htmlこちらによると、初出は1980年とのこと。

*2:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20081212/1229290185

*3:http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/6159/d-29.htmlこちらによると、「プラモが大脱走」は1982年が初出。