法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スマイルプリキュア!』第1話 誕生!笑顔まんてんキュアハッピー!!

三十代になったばかりな若手演出家の大塚隆史シリーズディレクターをつとめる新シリーズ。過去シリーズ全てに関わってきた*1演出家らしく、自ら演出した初回で見せた内容は、全シリーズの集大成といったところ。
5人いるプリキュアはデザイン担当者も共通する『Yes! プリキュア5』を思い出すし、走る姿でプリキュアの性格を表現するOPは『Yes! プリキュア5 GoGo!』。風景が日本の住宅街に近いところは『フレッシュプリキュア!』で、主人公が転校先で後に仲間となる少女に煽られて自己紹介する展開は『ハートキャッチプリキュア!』。主人公が初回から変身して敵幹部と怪物と戦って撃退するアクション密度は『ふたりはプリキュア Splash Star』以前の作風、戦闘時に周囲が特殊空間化するところは『ふたりはプリキュア』だ。


もちろん過去シリーズを思い出すだけでなく、それぞれブラッシュアップしている面もある。
特に、アバンタイトル冒頭の板野サーカス*2に代表される作画面の充実ぶりは素晴らしい。原画に大塚健石野聡といったスタジオへらくれすメンバーから、林祐己や稲上晃や小島彰といった東映アニメ作品の作画監督クラス、珍しいところでは羽田浩二まで参加。若手アニメーターの山岡直子が作画監督をつとめながら、そうそうたる原画陣に負けることなく、全体の統一感をはかれているところも良かった。そうしたアニメーションの力だけにたよらず、主人公の多彩な表情で楽しませ続けた演出密度も良かった。
背景美術も過去作品以上に日常的な風景を見せ、妖精を主人公が目撃する描写で風景との異化効果を生んだり*3、本が並ぶ世界との差異を強調したりして効果的。
他に演出的なアイデアとして、本を寄木細工のように移動させる場面が、音響演出込みで楽しかった。今後も使われるだろう基本描写として印象に残る。


物語面では、プリキュア時の名前通りに頭がハッピーっぽい主人公が、よく考えずに戦いへ参加するわけではなく、それなりに絵本知識をいかした作戦をとったり、ところどころで知恵をしぼっているところが興味深い。
思えば今回に最も主人公とふれあった妖精との関係性では、遠くにいるところを目撃したり、本の隙間から見つけたりと、まなざす場面が多い。体が先に動くのではなく、状況を観察してから積極的に動くキャラクターとして育っていけば、過去シリーズの主人公とも一味違うプリキュアになりそうだ。


ただし、絵本が好きな理由として必ずハッピーエンドだからと主人公が語る場面は、やや不安が残る。子供向け絵本でも、後味悪かったり哀しかったりする名作が今も人気を持っているはず。今後に痛みを描くことも重要かもしれないというエピソードはほしいところ。もちろん、その意見を聞いた上でハッピーエンドを目指すと主人公が宣言してもかまわない。あくまで絵本の多様性についても作品でふれてほしいということだ。
あと、主人公以外のキャラクターはさほど深くほりさげていないが、各プリキュアや敵幹部の一人は必要充分にテンポ良く紹介された。一見した姿と異なる複雑な面は、今後の話で見せていけばいい。

*1:スイートプリキュア♪』のみ、オールスター映画の監督をつとめただけで、本編は未参加。

*2:アニメーターによる作画単独では終わらず、撮影効果までふくめて映像が完成しているところは、吉成鋼サーカスに近い印象がある。

*3:電柱と電線で空が切り取られている街の情景は、子供向けアニメでは珍しい。