法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スマイルプリキュア!』第48話 光輝く未来へ!届け!最高のスマイル!!

最終回としての落としどころは予想以上に良かった。ただし、残念ながら結末は蛇足だった。


まず、映像面については、もうしぶんない。演出は大塚隆史SDが担当し、作画監督も初回と同じ山岡直子。
もっと面白い殺陣や意外な作画を見たかった気持ちもあるが、地球が砕けそうな映像等のハッタリで楽しませてくれた。顔をゆがめた主人公にほうれい線ができる表情作画も、生々しくていい。


そして前回から続く決戦において、プリキュアは変身能力を失う。そこで、どんな願いでもひとつかなえるミラクルジュエルを使って、再び変身しようとする。しかしミラクルジュエルを使えば、妖精世界やキャンディとも永遠に別れなければならない……
ここにいたって、「絆」という言葉が、逃れられない「枷」でも、強いられた「群」でもなく、離れていてもよりそえる「縁」となった。今作は過去シリーズに比べてプリキュアが自立していなかったから、個別に立つことをせまられた主人公の涙に、感じるところがあった。
肉体は遠く離れて、意思を伝える手段すら失っても、物語という形で「絆」をたしかめることができる。
それを絵本というモチーフで象徴した後日談も感心した。やがて卒業するものと一般的に考えられている絵本が、プリキュアを卒業した主人公達を象徴し、プリキュアから卒業していく幼い視聴者とも重なる。


そして、ここまでの展開で納得したからこそ、きちんとキャンディと別れるべきだった、と残念に思う。
せめて、次回から続編がはじまるならば理解できた。そうでなくても、1年以上の長い時間が作中で経過したという描写を入れれば、印象は違っていただろう。どのようにキャンディと再会できたのか、設定として納得できる説明すらない。結果として、直前の別れが茶番になってしまう。
OP後の提供絵を使った演出は面白かったが、たとえば過去を回想した主人公が描いた絵本の一頁として処理することもできたはず。そして曲がり角の先へ行ってもキャンディは姿を見せず、せいぜい幻のような声だけが聞こえて、しかし主人公は最高のスマイルを浮かべる……といった結末を見たかった。


最終回なので、全体の感想も書いておく。
全体をふりかえってみると、変身や必殺技のバンクシーンを少しずつ変えていくような、小手先の遊びが印象に残った。『プリキュア』というシリーズが定着したからこその、変化球で楽しませる作り。逆にいうと、過去シリーズの要素ばかり集めて、あまり新鮮味のない作品でもあった。
具体的な物語においても、ゲストキャラクターから展開する物語は悪い意味で薄く、メインキャラクター内で完結する物語が楽しかった。
米村正二シリーズ構成らしく、キャラクターは非凡だが、ストーリーは平凡。視聴者としては想像力をくすぐられつつも、期待はずれに感じることも多かった。


いずれにせよ、主人公側のキャラクター自体は、わりと大事にされていた。1年間をとおして、あまり言動に違和感を持たずにすんだ。それでも連続劇として弱く感じたのは、敵の背景や設定が、最後まであやふやだったためだろう。
黒幕の動機がはっきりしていないから、大規模な戦いになると似たような展開ばかりだし、シリアスな物語になると成長描写に唐突さが目立った。敵三幹部のいだいていた苦しみも、ハッピーの言葉だけで救われ、かつて感じていた問題が本当に解消されるか疑問が残った。ピエーロ復活を表示する時計も、シリーズ構成の都合で数が決められていることが、あからさまだった。
いっそ、ピエーロを意思を持たない災害のように設定しても良かった。三幹部の正体から考えても、災害や戦争による世界の変化を望む者と、その安易な希望に対抗する者の戦いにする、とか。実際、世界を変革する手段という意味では、「ピエーロ」こそ「ジョーカー」だったのだから……これはこれで風刺性が強すぎるかもしれないが。


映像面についていうと、平均値を上げつつ、要所に力を入れるつくり。かつては制限されている倍の作画リソースを投入したりしていた大塚SD*1だが、3作品の映画監督をへて、全体を見る立場としては抑え目な方針を選んだようだ。
その中では、前作SDの境宗久による演出回が、全体を通して素晴らしかった。シリアスが滑り気味だった今作において珍しく、きちんとした物語で、リアリティある世界を築いた。アクション演出でも、要所を担当した大塚SDとゲスト演出した大塚健を除き、最も良かった。

*1:プリキュアシンドローム!』の制作デスクインタビューによる。その次に、松本理恵が作画リソースを多く消費していたらしい。