新しい南京事件の受容についてメモ - 法華狼の日記でとりあげた「アルファルファモザイク」のコメント欄に、少し興味深い否定論を開陳するコメント群があった。
http://alfalfalfa.com/archives/4932262.html
用いている論法の一つが、南京攻略による被害の統計をとったスマイス調査を、加害者を調べていないので日本軍が虐殺した根拠にならないというもの。
1241 学名ナナシ : 2011年12月08日 23:42
スマイス調査で日本軍の虐殺があったとなんでわかる?
加害者が誰だか書いてないぞ。
そもそも足して30万にならない。
1246 学名ナナシ : 2011年12月09日 19:48
スマイスの「感想」を聞いてるんじゃないんだよw
調査票に加害者が書いてないだろ。
加害者が誰だか調べてないだろアホw
1251 学名ナナシ : 2011年12月10日 15:14
調査してないことをコメントしたんだから感想でも推測でもいいけど「根拠」にはならんわな。
そんなこといちいち指摘しなきゃ理解できないの?
実は、ここまでは珍しい論法ではない。南京事件FAQにも「スマイス報告の死亡者の報告には加害者の記載がない。日本軍兵士ではなく、中国軍、中国人犯罪者である」という否定派の主張へ反論する項目がもうけられている。
スマイス報告の「加害者」は大半が日本兵 - 南京事件FAQ
事実上、城内の焼払いのすべてと近郊農村の焼払いの多くは日本軍によって数次にわたりおこなわれたものである(南京においては入城から一週間すぎて十二月十九日から二月初めまで)。調査期間中の全域にわたっておこなわれた略奪の大半と、一般市民にたいする暴行は、実際のところすべて日本軍の手によっておこなわれた。
(『南京大残虐事件資料集 第2巻 英文資料編』p212)まえがきを書いたのはベイツであるが、当然スマイスの判断も同様であったはずである。つまり加害者の大半は日本兵というのが資料作成側の総意であった。この文章の前後には以下のような記述がある。
ところが、スマイス自身が自身の統計調査を日本軍によるものととらえていることがリンク*1つきで指摘されても、それは調査していないと無根拠で主張し続けるばかり。
1266 学名ナナシ : 2011年12月14日 01:31
>調査者自身が日本兵の加害についての調査とコメントしている。
なんという恥知らずな…
スマイスは戦争被害を調べているのであって日本兵の加害についての調査などとはしていない。
バカも休み休み言え。
もともと「ちなみに反日に虐殺の一次資料を要求してもそれが出てきたためしはない(笑)」と1234番で主張し、スマイス調査の存在を指摘されたという順序がある。調査の正確さを疑うくらいなら妥当性は別として理解できる態度だが、調査したスマイス自身が語っていると示されてなお無根拠で否定するのは悪あがきにしても珍しい。
ちなみに1241番では「そもそも足して30万にならない」とも主張していた。これはスマイス調査に対する反論として珍しくない。一部地域の統計調査であって全域調査でないことを指摘されて以降、こちらの主張はくりかえすことをやめたようだ。
さて、もう一つの珍しい論法が、「南京大虐殺」と「南京事件」は別物であって後者を論じても前者には無関係という主張。
1246 学名ナナシ : 2011年12月09日 19:48
そもそも「南京事件」とかボクちゃんの定義した正体不明の事件の話題じゃない。
日本軍の占領後に発生したとかふかしている南京城内の組織的無差別虐殺の話だ。
なに斜め上にずれてるんだよw
実は、ここまでは珍しい論法ではない。あたかも「南京大虐殺」が証明できなかったため主張を後退させて「南京事件」という言葉を使い始めたという主張は形を変えて何度も見かける。
ところがYAHOO!百科事典に「南京城内外」といった記載があることや、辞書的な説明であることを1249番で指摘され、「ボクちゃんの定義」という主張を撤回するかと思えば、無根拠に辞書を否定するという暴挙に出た。
1253 学名ナナシ : 2011年12月10日 23:37
>ずっと「南京事件」について語っているのだが。
お前はスレタイが読めないのか?
南京大虐殺は中国社会科学院が定義したものの日本語訳で固有名詞だ。
場所も期間も人数ももろもろきっちり決まってる。
お前の言う「南京事件」なんてのは勝手な定義。
辞書に書いてあるからとかバカ丸出しだろwww
ところがYAHOO!百科事典の項目名は「南京大虐殺」であった。中国主張の日本語訳といった説明もなく*2、逆に欧米の名称が引かれている。項目内の文章に「南京事件」という表記も用いられ、別物と主張するには根拠が必要なわけだ。
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E5%8D%97%E4%BA%AC%E5%A4%A7%E8%99%90%E6%AE%BA/
この事件を欧米ではナンキン・アトロシティーズNanking atrocitiesとよぶ。日本でも1970年ごろから南京大残虐事件、南京大虐殺とよばれるようになった。
なお南京では、南京攻略戦に従軍した将校で三百人斬(ぎ)りを誇称した大尉、百人斬り競争の少尉2人が南京事件関係者として処刑された。
ちなみに南京事件FAQでも呼称問題に一項目がさかれていて、変遷していった様子が調べられている。
南京事件/南京大虐殺の呼称は何がいいか - 南京事件FAQ
日本では読売新聞が伝える石川達三の東京裁判中におけるインタビューのタイトルは「裁かれる殘虐『南京事件』」となっている。東京裁判中は日本軍の戦争犯罪が次々に明らかになるので南京事件が個別に取り上げられて問題にされるということはなかったようである。
1952年11月になって『画報近代百年史 第十五集1937〜1940』という写真誌が発行された。中島師団に従軍していた不動健治氏(この本の編集長)が撮影した写真に南京大虐殺というタイトルが付けられた。ついで朝日新聞の従軍記者であった今井正剛氏は『特集文藝春秋』(1956年12月号)において南京大虐殺事件の原因について述べている。おそらく、この二つが「大虐殺」の早期の使用例であろう。対して歴史家で始めて南京事件を扱ったのは『近代史の謎』の洞富雄氏であろうが、氏はアトロシティにつながる、「南京残虐事件」という呼び方をしている。
上記のように、歴史的には「南京事件」という用語の初出が先行していた。それら以前の用例では中国語に従って「屠殺」のまま表記したり、戦前に「南京アトロシティーズ(atrocoties)」という用語が用いられていたことが指摘されている。
先述したように、このコメント群は「ちなみに反日に虐殺の一次資料を要求してもそれが出てきたためしはない(笑)」という主張を基礎にしている。
それでは様々な資料名や百科事典、FAQの存在を指摘されると、どう対応しただろうか。
1267 学名ナナシ : 2011年12月14日 01:47
そんな反日リンクなんか危なくて踏めるわけないだろ。常識で考えろよw
お前に説得力がないからといって怪しいリンクを踏ませようとすれば逆効果だろw
1275 学名ナナシ : 2011年12月14日 14:18
あと、怪しげなリンクは一切踏まないからw 当然だよねw
根拠となるサイトを全く示さない態度と一貫性があるとはいえるかもしれない。だが、本当に怪しげなリンクを踏めないならば、2ちゃんねるまとめブログにコメントすることなどできないだろう。
しかも示されたサイトにはYAHOO!百科事典もあり、それについてはさすがに怪しげなリンクと言い逃れられないだろうと思っていたのだが、二重の意味で驚くべきコメントをしていた。
1276 学名ナナシ : 2011年12月14日 14:26
>すでに>>1265で引用した百科事典の記述内にあるよ。
だから踏まないってw
YAHOO!の公式コンテンツを「怪しげ」といって踏めないほど厳しいセキュリティ思想で、どのように2ちゃんねるまとめブログへたどりついたのだろうか。
しかも引用されているので、リンクを踏まなくても「元日本軍の団体すら最終的に虐殺を認めた」という論点の記述は読めるはずなのだ。
1265 学名ナナシ : 2011年12月13日 12:54
ttp://100.yahoo.co.jp/detail/%E5%8D%97%E4%BA%AC%E5%A4%A7%E8%99%90%E6%AE%BA/
>田中正明(1911―2006)『“南京虐殺”の虚構』(1984)が発表されると、その内容が事件の存在そのものを否定するものであったため、日本の歴史家だけでなく中国をも巻き込む国際的論争に発展した。こうしたなかで、旧陸軍の正規将校の団体である偕行(かいこう)社が、『南京戦史』(非売品、1989)を公刊して、少なくとも約1万6000名に上る捕虜などの殺害があったことを認めたため、論争は一段落した。
示された根拠から目をそらすために「怪しげ」と主張していることを、語るに落ちたようなものだ。
他の否定論も大同小異、古臭い論法を維持しようとして、無理をきたしていっているものばかり。しかも根拠となる資料をろくに示そうとしない。
いずれにせよ、否定論の論法自体は珍しくない。興味深いのは、南京事件否定論を主張し続けることが、はてしなく現実から遠ざかっていくことでしかないと露呈する姿だ。
南京事件否定論批判の方法論や資料が充実しつつあるからこそ露呈させられたのだろうし、露呈しても恥と思わない相手には批判が痛痒にならないともいえるだろう。