法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

朝日新聞に登場したユーチューバーKAZUYA氏の南京事件否定論がすごいひどい

YOUTUBEで主張を展開するユーチューバー。そこでよくある愛国的な主張をたれながして人気を集めているKAZUYA氏に対して、朝日新聞がインタビューをしていた。
http://www.asahi.com/articles/ASHD36T25HD3ULZU00Z.html

11月、浜松市での講演では「人口20万人の南京で、30万人殺したという。ファンタジー(空想)的だ」。諸説ある南京事件の死者数に関する中国側の主張を揶揄(やゆ)した。岡山市でも事件にふれ、「ウソでもいいから日本をおとしめるために何でもやるのが中国だ」と訴えた。

 だが、20万人というのは南京市の特定地域の人口の推計で、市全体のものではない。KAZUYAは取材に対して「知っています。耳を引くためにオーバーな言い方をしています」と答えた。

“ウソでもいいからおとしめるために何でもやってる”のは自己紹介だろう、としか思えない。否定論としても古典的にすぎる。
二十万都市で三十万虐殺?
この朝日記事は、猪口邦子議員から米国の研究者へ書籍が送りつけられている問題や*1、フランス右翼政党の日本への憧れなどを取材しており、全体として興味深い内容だった。


さて、KAZUYA氏による弁明は下記の映像のとおり。

「知っています。耳を引くためにオーバーな言い方をしています」という発言の釈明は1分45秒ごろから。「知っています」は安全区に対するコメントだが、「オーバーな言い方」は「動画の手法全般を指していいました」とのことだという。しかし録音したというインタビューの音声は流されない。
釈明を信じたとしても、全般を指したなら細かな主張も内包されると解釈されても不思議ではない。知っていたことを細かく説明しなかったという問題も残る。
つづけてKAZUYA氏は2分ごろから、安全区の外には中国人がいなかったという主張を展開する。だが、ゲリラと間違われるから中国人はすべて安全区に逃げ込んだかのように主張するだけ。2分半ごろには「それ以外に多数の人間がいたって資料があるんでしょうか?」と立証責任を転嫁する。


現実には、日本軍の南京攻略戦にまつわる被害を同時代に調査したスマイス報告が存在する。それを読むと、特定地域どころか、南京市の周辺の犠牲もサンプリング調査している。
スマイス報告をめぐる議論
念のため、生存できた家族から聞きとった調査なので、かたよりはある。それでも南京事件以前に安全区へ全住民が逃げこんでいたなら、周辺の犠牲が算出されることはなかったろう。スマイス報告は農村の犠牲を重視していたためか、むしろ南京市外の犠牲者数を多く算出している。
そもそもKAZUYA氏は、中国主張の「30万人」が軍人をふくんでいることすら知らないらしい。2010年に報告書が公開された日中歴史共同研究で、中国側論文は「大量の中国軍人が捕虜になった後、日本軍に集団で虐殺された」*2と主張しているし、日本側論文も「日本軍による捕虜、敗残兵、便衣兵、及び一部の市民に対して集団的、個別的な虐殺事件が発生し、強姦、略奪や放火も頻発した」*3と認定している。
日中とも軍人への殺害を虐殺から除外していない。市民が20万人だったと仮定しても、犠牲者の総数が30万人だという算数は、形式的になりたつのだ。