法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

私は如何にして心配するのを止めて産経を愛するようになったか

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』という映画がある。核開発競争の続く世界が楽観主義と悲観主義で破滅していく様子を風刺した、スタンリー・キューブリック監督によるブラックコメディだ。


さて、先日の産経新聞に下記のような記事が掲載されていた。被災した福島原発事故の現状を受けた海外記事を紹介するものだ。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110328/amr11032814520005-n1.htm

 東日本大震災で被災した福島第1原発事故の行方を世界が注視している。「想像できる範囲で最も厳しい試練に直面」(英紙)との見方も広く共有されている一方で、当局や原発業界が抱える問題点を指摘しつつ、事故を教訓としてより安全な原発との共存を模索する論調も欧米各紙には目立つ。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/110328/amr11032814520005-n3.htm

 ■私を原発信者にさせたフクシマ

 22日付の英紙ガーディアンで環境コラムニスト、ジョージ・モンビオ氏は「なぜフクシマは私の不安を取り除き、原発を許容させたのか」と題して「原子力は想像できる範囲で最も厳しい試練に直面しているが、人類や地球への影響は小さい」と指摘している。

 モンビオ氏は地球温暖化に警鐘を鳴らしてきた環境派だ。温暖化対策のため温室効果ガスを出さない原子力を見直す動きには距離を置いてきたが、福島第1原発事故を目の当たりにして原発推進派に転じたと打ち明ける。

 「不十分な安全機能しかない老朽化したポンコツ原発を怪物のような地震と巨大津波が襲った。原発は爆発し炉心溶融を始めたが、知り得る限り誰一人として致死量の放射線を浴びていない」と語り、環境保護派は放射能汚染の被害を誇張し過ぎているとも批判する。

 モンビオ氏はまた、「エネルギーは薬と同じでどんなものでも副作用を伴う」と指摘。太陽光など、再生可能なエネルギーを促進する必要はあるものの、原発による電力供給をすべて再生可能エネルギーに置き換えることはできない。

 環境保護派は風や川の流れをエネルギーに転換する牧歌的な理想を唱えるが、水力発電は川の流れをせき止め自然環境を破壊する。 英イングランド地方では1800年に1100万トンの石炭が産出されたが、これと同じエネルギーを得ようとすれば4万4500平方キロメートル超の森を切り倒す必要があるという。

 モンビオ氏は「原発を廃止したらそれに代わるのは森でも水でも風でも太陽でもなく化石燃料だ。石炭は原発の100倍の害をまき散らす。原子力産業のウソは嫌いだが、フクシマは私を原発信者に改宗させた」と結ぶ。(ロンドン 木村正人)

ジョージ・モンビオ氏は過度に楽観的なのか、それとも22日当時の現状を認識していないのだろうか……実は、はてなブックマークですでに複数の指摘がある。
はてなブックマーク - 【環球異見・原発事故】「私を原発信者にさせたフクシマ」英紙で環境コラムニスト+(1/3ページ) - MSN産経ニュース

id:asamisimasa ガーディアンの元記事http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2011/mar/21/pro-nuclear-japan-fukushima  この記事タイトル(もちろんあの映画)からして、推進派を皮肉ったものでは? 2011/03/28
id:kurotokage 原発, 報道 あーそうか「私は如何にして心配するのを止めて原発を愛するようになったか」か、これは最高に気が利いている。産経のアホ。 2011/03/28
id:LondonBridge 元記事とかなりニュアンスが違うようだが? http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2011/mar/21/pro-nuclear-japan-fukushima 2011/03/29
id:ahmok 原発 Why Fukushima made me stop worrying and love nuclear power / 映画:Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb 邦題:博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか…をもじったのねw 2011/03/29

つまり名作映画で状況を皮肉ったイギリス人のブラックジョークを、産経新聞が素直に賞賛と受け取っていただけだった。……産経新聞も悪いが、ブリティッシュジョークのきつさも改めて思い知らされた。
ちなみにキューブリック監督は米国生まれだが、後にイギリスへ渡って多くの映画作品を作り上げた。たとえばベトナム戦争を描いた『フルメタル・ジャケット』すら全てをイギリスのオープンセットで再現し、完璧主義者の作品なのに戦場の高温湿潤な雰囲気が全く反映されていない。『博士の異常な愛情』もイギリスで撮影された、イギリス映画である。