法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

自衛隊や警察が暴力装置ということ

とりあえず、ざっくりした報道のまとめ。
http://www.asahi.com/politics/update/1118/TKY201011180169.html

 仙谷由人官房長官は18日の参院予算委員会で、「自衛隊暴力装置」と述べた。その後、「実力組織」と言い換えた上で、発言を撤回し、謝罪した。

 「暴力装置」の表現は、かつて自衛隊違憲と批判する立場から使用されてきた経緯がある。

 この発言は、世耕弘成氏(自民)の質問に対する答弁で飛び出した。世耕氏は、防衛省が政治的な発言をする団体に防衛省自衛隊がかかわる行事への参加を控えてもらうよう指示する通達を出したことを問題視し、国家公務員と自衛隊員の違いを質問。仙谷氏が「暴力装置でもある自衛隊は特段の政治的な中立性が確保されなければならない」と語った。

 世耕氏は仙谷氏に対し、発言の撤回と謝罪を要求。仙谷氏は「用語として不適当だった。自衛隊のみなさんには謝罪致します」と述べた。

撤回を要求した世耕氏も問題なら、撤回して謝罪した仙谷氏も問題。もっと問題になるような局面で批判をしりぞけてきたのに、謝る必要がない局面で謝ってどうするのだろうか。
上記の朝日新聞記事では「かつて自衛隊違憲と批判する立場から使用されてきた経緯がある」と説明しているが、実際には一般的な用語としても用いられている。自民党政権時代の元防衛相が発言で用いて、それを朝日新聞社が報じるくらいに。
asahi.com:AAN発 - 朝日新聞アジアネットワーク - 国際

破綻国家においてどうしてテロは起こるのかというと、警察と軍隊という暴力装置を独占していないのであんなことが起こるのだということなんだろうと私は思っています。国家の定義というのは、警察と軍隊という暴力装置を合法的に所有するというのが国家の1つの定義のはずなので、ところが、それがなくなってしまうと、武力を統制する主体がなくなってしまってああいうことが起こるのだと。

念のため、現段階では石破茂氏に問題があるとはいわない。党政調会長という重職にあることだし、世耕氏へ注意するべきとは思うが、巨大政党で防ぐことは困難だとも思う。今は事態収拾のお手並みを拝見したい。


それでは石破氏が所属する自民党議員のツイートを紹介していこう。まずは山本一太氏から。

「大臣のクビどころか、内閣が吹っ飛ぶかもしれない」という発言が自民党議員から出た時、すでに山本氏は議員であった。当時から山本氏は軽率なキャラクターであり、今回の発言に意外性はないが。
次は山梨県参議院選挙区第2支部長の宮川典子氏のツイートだ*1

下手にマックス・ウェーバーを「もちろん知っている」ととりつくろったため、石破発言と対比しての味わい深さが増している。
最後に自民党現総裁である谷垣禎一氏のツイートを紹介する。

一時期の石破氏が自民党内で「革命勢力」であったことは事実かもしれない。しかし当時の石破氏も農林水産大臣であり、それなりに「政権の中枢」と呼べることも確かだろう。


FNNニュースでは、他の自民党議員も「暴力装置」という言葉を問題視した様子がわかる。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00188150.html*2

しかし、野党からは批判が相次いだ。
自民党の小泉 進次郎議員は「自衛隊暴力組織ではなく、日本の平和を守るためのもの。本当にひどい発言だなと思う」と述べた。
みんなの党の渡辺代表は「昔の左翼時代のDNAが、図らずも明らかになった。たがが緩んで失言が頻発しますね。政権末期症状だと思います」と述べた。
自衛隊イラクの復興支援に携わった自民党佐藤正久議員は「血管が切れそうになりましたよ。わたしも暴力装置出身の議員、暴力装置議員となる。全国の自衛隊員は、ふざけるなという思いでいっぱいだと思う」と述べた。
暴力装置」発言直後の定例会見で、仙谷官房長官は「私は丁寧に法律論なら法律論、政治論なら政治論を説明しているつもりです」と述べた。
午後になって、この問題はさらに紛糾した。
参院予算委で、真っ赤なスーツの自民党丸川珠代議員は、菅首相を「自衛隊の最高指揮権を有する最高責任者として、この発言をどう思いますか?」と追及。
菅首相は「最初の表現は、『やや』問題があったと。言葉というのは、いろいろな感じた方があると思います。ご本人が謝罪し、訂正して変えられたわけでありますから」と述べた。
しかし、丸川議員は「暴力装置という言葉は、われわれの平和憲法を否定するものですよ。ただ形だけ謝っただけで、本当に隊員の士気が維持できると思いますか? 命を懸けて国を守っている人たちに、これで納得してもらえると思っているんですか? 最高指揮官として」とさらに追及した。
これに対し、菅首相は「ご本人を招いて注意をいたします。私からもおわびを申し上げたいと思います」と謝罪した。
丸川議員はさらに、18日に最終日を迎えた民主党政権の目玉「事業仕分け」の矛盾について、蓮舫行政刷新担当相を追及した。
丸川議員は「蓮舫大臣、どうして閣議決定や政府の方針と反するものを再仕分けの対象、仕分けの対象に選ばれたのか」と追及した。

小泉進次郎氏の発言は、何とも語彙が少ない。もちろん言葉の平易さが魅力となる場面もあるだろうが。
丸川珠代氏にいたっては、どこから「平和憲法」が来たのかさっぱりわからない。


さて、自民党議員に代弁された立場の自衛隊からはどのような意見が出ただろうか。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101118/plc1011181837017-n1.htm

 仙谷由人官房長官が18日の参院予算委員会で、自衛隊について「暴力装置」などと述べた後に撤回した問題で、国防の第一線に立つ現役の自衛官からは、怒りや不快感、失望の声が挙がった。

 陸海空の自衛官の最高位に就く折木(おりき)良一統合幕僚長はこの日の会見で、「国会の議論は整斉(せいせい)とやっていただいていると思うが、われわれとしてはやることをきちんとやっていくということ」と述べ、任務に徹する考えを示した。

 一方、30代の男性航空自衛官は「官房長官たる人がいくら撤回したとはいえ思想の中で『暴力装置』だと思っていることが非常に残念。(謝罪をして『実力組織』と)言い換えても思っていることに変わりない」と怒りをあらわにした。

 50代の男性陸上自衛官は「本音の部分ではいろいろと思うところはあるが、制服組なので政治的発言は控えたい」と前置きした上で、「国会で答弁が行われている間も、われわれは山の中に入ったりして訓練をしている。それは何のためかといえば国の平和と安全を守るためだ。命を賭(と)して国を守っている自衛隊員への発言として、いい気持ちはしない」と切り捨てた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101118/plc1011181837017-n2.htm

 陸自に所属する30代の男性自衛官も「『暴力装置』とはマイナスイメージの言葉で、社会悪のようなイメージ。まるで自衛隊は存在してはだめだと言いたげだった。おそらく自身の経歴からにじみ出た軍隊観だと思うが、一国の官房長官にここまで毛嫌いされているのかと思うと、悲しいし、むなしい」と肩を落とした。

 また、ある自衛隊幹部は「官房長官は『実力組織』と言い換えているし、言葉の問題だけに目を向けるのではなく、冷静に受け止めるべきだ」と一歩引いた見方を示した。

暗澹とする発言ばかりだが、先日も群馬県知事の発言意図を歪曲*3した産経新聞の記事であり、発言者も全て匿名。この記事から即断することは避けたい。
そこで簡単に探したところ、信頼できる現職自衛隊員の発言は見当たらない。
代わりに元自衛隊員の有力者が批判した発言はいくつか見つかるので、それを紹介していこう。まずはイラク戦争で有名になった自衛隊元幹部であり、現自民党議員でもある佐藤正久氏の発言だ。

自衛隊側が旧軍と同一視されたくないという心情はよく主張されるところではあるが*4、「自衛隊の武力が国民に向かうかのような認識」は民主国家であればこそ常に念頭へ置いておくべきことだろう。
オフィシャルページでも「民主党は左翼革命集団か!」なる長文を書いている。さすがにマックス・ウェーバーへの言及はあるが、タイトルからして仙谷氏のみならず民主党批判ありきのような内容だ。
TEGELOG

暴力装置」とは、マックス・ウェーバーによる「暴力を統制するためにはより強力な暴力、すなわち組織化された暴力が社会の中で準備されなければならない」とする考え方ではあるが、仙谷官房長官の今回の発言は、軍隊・警察など暴力装置を中核とする国家権力を、暴力的形態で粉砕し権力を奪取することにより達成されるとする、マルクス・レーニン主義による人民による暴力革命論に立つ捉え方ではないか。

当然、憲法19条を否定するものではないが、この考え方は、国家=悪とするものであり、仙谷官房長官が、いくらかつて左翼の闘士といわれていても、国家の中枢にいる政府高官から、この言葉が出たことは驚きであり、結局、彼がマルクス主義から脱却していない証拠である。

民主党は7月の参院選比例代表で、政府が革マル派が浸透していると認定しているJR総連の組織内候補である田城郁(たしろ かおる)を公認し、当選させた。田城議員はJR東労組中央本部政策調査部長などを歴任。革マル派創設者の一人で、JR東労組の委員長などを歴任した松崎明氏の側近を務めていたとされている。

また枝野幸男幹事長が平成8年衆院選で、JR東日本労組幹部で革マル派幹部とされる人物と「推薦に関する覚書」を交わしているとされており、このこと自体は、本人も認めている。

北澤防衛相も着任時の訓辞において「間違った歴史は繰り返されるべきではありません。昭和の時代に国家が存亡の淵に立たされた最初の一歩は、政府の方針に従わない軍人の出現と、その軍人を統制できなかった政府・議会の弱体化でありました。こうした歴史の教訓を踏まえますと、まさに鳩山内閣の政治主導の下でのシビリアンコントロールの確保が極めて重要であります」と述べている。これも軍隊=暴力装置であり、しっかり監視・統制していないと、何をしでかすかわからないという、不信の表れであろう。

いや北澤防衛相の訓辞は、それ自体は何一つ悪くないだろう。民主党政権が実行できるかどうかは別にして、むしろ最低でも求められる姿勢と考えるべきだろう。他も、革マル派幹部とされる人物と「推薦に関する覚書」を交わしたとか、革マル派創設者の一人の側近を務めていたとされるとか、近いようで微妙に遠いものばかり。
そして元航空幕僚長田母神俊雄氏も予想を裏切らない発言。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101118/plc1011181849018-n1.htm

 仙谷由人官房長官の発言について元航空幕僚長の田母神(たもがみ)俊雄氏は「自衛隊に対する仙谷氏の本音だろう」とした上で、「本来、自衛隊は国民のためにあり、国民を守る組織。そのことをしっかり本音で認識していないからこそ『暴力装置』といった言葉が出てくるのだろう」と話した。

 仙谷官房長官は発言を取り消し、陳謝したが、田母神氏は「陳謝は批判を浴びたくない、保身などの思惑から。発言だけは取り消せても仙谷氏が自衛隊を本音でどう認識していたのか。認識までは取り消せない」と厳しく指摘した。

 「官房長官という立場は自衛隊の最高責任者である総理大臣を補佐する立場。それがこの認識では隊員の信頼を得ることはできないし、いつはしごをはずされるかわからないだろう」とも述べ、「これでは任務遂行はもちろん、命を賭けて職務にあたることなどできはしない」と切り捨てた。

 さらに、「自衛隊に限らず、海上保安庁や警察でも仙谷発言の本質はすでに見透かされている。組織として士気は下がり面従腹背(めんじゅうふくはい)が蔓延(まんえん)するだろう。国家として弱体化していくわが国を象徴する光景であり、発言だと思う」と話した。

士気が下がるまではともかく、与党政治家が「暴力装置」という言葉を使ったくらいで面従腹背が蔓延するような組織じゃ、最初から国民を守ることなんて無理なんじゃないかな。

*1:ちなみにブログでは尖閣ビデオ流出に対して「38」の独自解釈を開陳している。http://ameblo.jp/mygwnrk/entry-10697963651.html……どうしたら「3」が「忘」になるのだろう。中国語読みか何かなのか。

*2:記事後半の、柳田法相への問責決議案は順当だと思うが。

*3:http://togetter.com/li/69643

*4:努力していることは事実でありつつ、努力不足もよく指摘される。