法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

トンデモ業界ひっつきもっつき

先日に書いた下記エントリは、熊森協会を擁護することが目的ではない。
熊森協会だけが特別に批判されるべきと思えないのだが - 法華狼の日記
ただ、インターネットで売名していた当初の在特会新風連と同じくらいには巧妙で、社会全体が隠し持っている問題を反映し増幅した団体ととらえるべきではないか、と感じたわけ。


もちろん、熊森協会注視して批判すること自体を否定したいわけではない。普遍的な問題をとらえることと固有の問題を見逃すことは違う。
それどころか、今回のエントリタイトルの元ネタとさせてもらったid:felis_azuri氏のエントリでは、熊森協会の活動や主張する範囲が熊と人の共生という領域を大きく逸脱していたことが指摘されている。
Gazing at the Celestial Blue 熊森とひっつきもっつき、その2の1
Gazing at the Celestial Blue 熊森とひっつきもっつき、その2の2
別のトンデモ著名人との意外な繋がりが存在していた。
その元ネタとなったid:akira-2008氏のエントリでも、全く別領域のトンデモ団体と、講演を互いに協賛する組織的なレベルで繋がっていたことが指摘されている。
汝の隣人のブログを愛せよ | LOVELOG
なお、単に繋がりがあっただけで全てを操る黒幕の存在を想像してしまうようでは、それもまた陰謀論におちいる危険性がある。上記エントリで両氏が指摘している熊森協会の問題点は、異なるトンデモ団体を批判できない判断力欠如ぶり、仲間集めのため最低限の節操すら捨てる態度ということを注意しておきたい。


そんな「ひっつきもっつき」の一例について、少し後で私もエントリを上げた。熊森協会とは関係ないが、一見すると罪のないUFO肯定論者が異なる領域で深刻なトンデモをとなえている例だ。
『ビートたけしの禁断のスクープ大暴露!!超常現象SP(秘)Xファイル』 - 法華狼の日記
だが話はここで終わらなかった。コメント欄において、id:banzaic氏から興味深い情報をいただいたのだ。

あのテレビに出てきた(VTRの導入では説明が、海外の涙を流す聖母マリア像を写した後に、日本ではと話を振り、大地震が起きた)北海道にある髪毛が伸びる人形(鬼子母神)は宗教右翼カルトが疑われてる「念法寺」でした。妙法寺みたいな名前ですが、全国展開してる新宗教です。

インターネットで簡単に調べてみると、確かに「念法寺」は「念法眞教」という新興宗教団体が全国展開している支院らしい。
北海道地方:全国の支院|宗教法人 念法眞教
しかし帯広にあるのは「念法寺」であり、掲載されている写真の外観から見てもTV番組で紹介された「妙法寺」とは異なる。GoogleMapで見ても住所は異なっている。今のところ、番組を見たbanzaic氏の記憶錯誤ではないかと思う。


しかし、念法眞教という新興宗教自体には興味がわいた。
公式サイトで確かめると、念法眞教は戦前の神がかり体験による開祖の宗教活動をへて、戦後に団体として独立したようだ。
念法眞教の歩み:念法眞教とは|宗教法人 念法眞教

大正14年8月3日、突如として久遠実成阿弥陀如来(くおんじつじょうあみだにょらい)の霊告を感得します。このときの霊告は、「世は末法であっておしえはあっても形骸化しているので汝に霊徳を授け、信仰の立て直しをし世の中の立て替えをする。汝は六根を清浄にして、多くの悩める人に誠の道を知らし導け。必要なことは汝の口を割ってわし(仏)が話す」というような内容でした。その翌日から開祖の体には異変が起こり、他人(ひと)の心と体がわかり病源がわかるなど、不思議の霊徳を授かりました。

その後、開祖はご本尊の霊示を自身が感得したこと(御眞言(注)、念法紋章、念法数え歌、五聖訓、第二次世界大戦開戦の霊示、女性覚醒の霊示、胎内教育の霊示など)をまとめ、一つの教義体系をつくり、世の人々に布教しようとしましたが、その当時は宗教団体法があり、大宗派大教団の傘のもとでなければ布教・教化が難しかったので、昭和14年天台宗修験道の本山である吉野山金峯山寺(きんぷせんじ)に身をよせ、天台宗金剛教会として布教したのでした。

昭和19年4月、開祖は敗戦の霊示を受けました。それから翌昭和20年8月15日、敗戦の詔勅を聞き、自決を覚悟します。このとき、「泣くな嘆くな五年でかえる、おそうて六年中頃までに」という日本占領終結のご霊示と共に、日本を再建せよとのおさしずを受け、日本の復興と真の世界平和のためにこの身を捧げようと決意されました。

予言についての記述など、典型的な新興宗教の誕生記録と思える。戦前から戦中にかけては既存の仏教団体内で活動していたところが特徴か。
活動記録から、右翼団体との繋がりを想起させる記述も見つかった。
念法眞教の歩み:念法眞教とは|宗教法人 念法眞教

昭48.10.4

開祖、北海道ご親教のおり、日本最北の地稚内に向かい、稚内公園に建つ「氷雪の門」「九人の乙女の碑」に参拝し、追悼と平和の祈りを捧げ、日本の平和と安全を祈念する。

昭49.4.2

日本の良き伝統文化の継承発展を目的に「日本を守る会」が結成。臨済宗円覚寺派管長(当時)朝比奈宗源老師と共に、開祖、発起人として協力する。

昭60.8.17〜23

北方領土返還運動の一環として、念法青年北方領土視察研修旅行を実施。(毎年8月実施)。

この「日本を守る会」は悪名高い「日本会議」の前身だ。
日本会議とは « 日本会議

 私達「日本会議」は、前身団体である「日本を守る国民会議」と「日本を守る会」とが統合し、平成9年5月30日に設立された全国に草の根ネットワークをもつ国民運動団体です。

一足早く掲載されている「新年のごあいさつ」の名前を見ても、右翼との結びつきがうかがえる。

各界から教団に寄せられた新年のごあいさつ 平成23年(2011年)1月1日

天台座主 半田 孝淳
高野山真言宗 管長 松長 有慶
融通念仏宗 管長 倍巖 良舜
金峯山修験本宗 管長 五條 覚堯
真宗木邊派 門主 木邊 円慈
妙法院門跡 門主 菅原 信海
神社本庁 総長 田中 恆清
賀茂別雷神社 宮司 田中 安比
立命館大学 教授 加地 伸行
杏林大学 名誉教授 田久保 忠衛

加地教授は『正論』で「暴力装置」と発言したことをもって仙谷官房長官を「新左翼思想の持ち主」と断じた人物だ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/101122/stt1011220345002-n1.htm

 「暴力装置でもある自衛隊」と仙谷由人官房長官が18日の参院予算委員会において発言した。「国家の暴力装置」というこの言葉、四十数年前の大学紛争のころ、全共闘系学生集団いわゆる新左翼が警察、特に機動隊を指していつも使っていた。この発言により、仙谷某が新左翼思想の持ち主であることを自ら示した。こういうのを「語るに落ちる」と言う。

その事件が起こった埼玉県の航空自衛隊基地の近くに、人事院の公務員研修所がある。そこの講師として、この10年近く、毎年1回、私は出講してきた。対象は中央省庁の課長級であり、まさに、我(わ)が国を背負って立つ人材群である。

年に一度とはいえ、さぞかし講義を受けた人材群は災難だったことだろう。
中国に対する見解が日中戦争当時の誤った中国観に似ているとdj19氏から指摘されたこともある。
大阪大学名誉教授の加地伸行について - Transnational History
田久保名誉教授も『正論』を執筆している一人。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100413/plc1004130330001-n1.htm

歴史的にも国際法的にも正しい日本の主張は、長丁場の交渉で日本側の息が切れ、戦略を忘れて相手の気をいかに引くかの戦術論に堕してきてしまったのではないか、との前提で上坂さんと私は話し合った。鋭利な頭脳を持った専門家が知恵を絞っているうちに、国家の主権、独立、父祖伝来の地という芯(しん)が知らず知らずのうちに溶融し、相手が売る素振りも見せない商品を、いかに買い取るかに腐心する奇妙な結果を招来している。

北方領土を「父祖伝来の地」と表現する時には葛藤してほしいところ。先に引用した念法眞教の活動との関係もうかがえる。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100413/plc1004130330001-n3.htm

 特定の国を対象に国民に憎悪感をたたき込もうとの方針を採っている国がある。将来の国家関係を歪(ゆが)め、悪影響がはね返ってくる愚行をしたくないが、事実は記録として永遠に留めておかなければいけない。終戦前後の日ソ関係でソ連は完全な加害者であり、日本は被害者であった。

引用冒頭の一行は自己批判かと思ったが、違っていた。
田久保名誉教授はチャンネル桜が「頑張れ日本!全国行動委員会」を結成した大会でも、登壇者に名を連ねている。
http://www.ch-sakura.jp/topix/1360.html*1

外国人地方参政権付与等の「日本解体」を阻止すべく、さらに力強く、新たな展開を見据え、頑張れ日本!全国行動委員会 が結成されます!

安倍晋三平沼赳夫下村博文高市早苗山谷えり子衛藤晟一西田昌司稲田朋美大江康弘、城内 実、中山成彬西村眞悟赤池誠章萩生田光一馬渡龍治、林 潤、田母神俊雄小田村四郎日下公人加瀬英明西尾幹二田久保忠衛井尻千男、小林 正、福地 惇、西岡 力、すぎやまこういち増元照明富岡幸一郎藤井厳喜、潮 匡人、西村幸祐井上和彦、大高未貴、高清水有子三橋貴明、石 平、小山和伸土屋たかゆき、三宅 博、松浦芳子三輪和雄村田春樹坂東忠信英霊来世saya、地方議員の皆さん ほか多数

[当日参加] 古屋圭司牧原秀樹、山本峯章、佐波優子

Prodigal_Son氏経由で知ったが*2維新政党・新風が主催した「教育における体罰を考えるシンポジウム」にも第二部でパネリストの一人として参加していた。
http://shimpuoshirase.sblo.jp/article/28970084.html*3

第二部:パネルディスカッション     
テーマ:「教育に体罰は必要か?」

パネリスト 
小林正(元参議院議員、教育評論家)
高橋史朗 (明星大学教授)
田久保忠衛(外交評論家)
南出喜久治(弁護士)
村松英子 (女優)
佐山サトル初代タイガーマスク 興義館 総監)
鈴木信行 (維新政党・新風 幹事長)
光永勇  (全国勝手連合会 会長)
西村幸祐 (作家・評論家・ジャーナリスト)

総合司会 水島総 (チャンネル桜 代表取締役社長)
日本国歌独唱MASAMI (ソプラノ歌手・藤原歌劇団

田母神論文を擁護した一人でもあったことをApeman氏がエントリで紹介している。
「田母神論文」を擁護する人びと - Apeman’s diary

元空幕長援護のために動員されたのは元谷外志雄代表、匿名の防衛省関係者以外に田久保忠衛中西輝政佐瀬昌盛(防衛大名誉教授)、本郷美則(朝日OB)の各氏。

そして田母神俊雄オフィシャルブログでは、ブックマークに念法眞教が存在する。
田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

* 宮内庁
* 靖國神社
* 靖國神社遊就館
* 靖國神社崇敬奉賛会
* 神社本庁
* チャンネル桜
* 産経新聞
* 念法眞教
* モラロジー研究所
* 日本会議

ブックマーク一覧のページに飛ぶまでもなく表示されるのだから、この界隈において念法眞教は重要度の高い存在なのだろう。


そして有害コミック撲滅運動との関係性についてだが、規制派側からの公式情報では見当たらなかった。
しかし反規制派側からは、かつて『創』等で指摘されていたことがkamayan氏のエントリで紹介されていた。
2005-07-12 - カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記/はてダ版

朝日新聞九一年五月二九日朝刊記事

ある県議から「『子供を守る会』の運動の中心は、ある宗教団体の信者だった」と聞いた。

その仏教系新興宗教(本部・大阪、信者・公称八十万人)は、昨年〔九〇年〕六月から八月にかけ、機関紙で性描写のある青少年向けコミックを批判する特集を六回掲載。そこでは道徳教育や愛国心の重要性を強調、「言論・表現の自由との美名のもと、すべての日本人を『性の奴隷』に仕上げようとする危険極まりない《亡国》の途をたどりつつある」と指摘した。〔略〕機関紙が火をつけたのは事実と思う。

最近では平凡社新書の長岡義幸『マンガはなぜ規制されるのか』でも言及されているらしい。
汝の隣人のブログを愛せよ | LOVELOG

 この本では90年代なかばに和歌山で規制運動が盛り上がり、その背後に「念法眞教」という宗教団体があったことを明らかにしていますが、ある種の母親たちを動員する手段としてマンガ規制が持ち出されていたことがうかがえて興味深いです。

このようなところで最近話題の出来事とも繋がってきた。まったくもってトンデモ業界は冥府魔道と思わざるをえない。


ちなみに、念法眞教の公式サイトでは「ヒーリングコミックス」なる特設ページが存在する。
ヒーリングコミックス|宗教法人 念法眞教

普段の生活の中で、忘れかけていた大切なものを気づかせてくれる
小さな感動や心がホッとする体験をストーリー漫画でご紹介します。

どれもアマチュア作品としてはよくできた部類だと思えるが、毒にも薬にもならない内容ばかりだ。なるほど有害コミックではないといえるだろう。宗教色の薄さも興味深い。
別のページでは4コマ漫画『極楽家族』が掲載されており、こちらは宗教色が強く、毒も見受けられる。
がんばれNIPPON!〜あがれ日の丸!!:4コマ漫画 極楽家族 | 念法眞教




北京オリンピックを題材にして、あえてこの漫画を掲載するところが念法眞教自体の右翼色をうかがわせる。
内容自体は特に文句はない。他国の状況を知らない子供キャラクターの発言に対して、ドイツ国旗やルーマニア国旗*4の変遷を指摘してもしかたがないだろう。
ただ、日の丸への反対意見を述べる人物像には、近年のマンガ表現として政治的に正しくないと思わないでもない。あと、教師の主張に生徒が反論して他の子供も賛同する描写は皮肉にも往年の左翼らしさがある。

*1:登壇者名の太字強調は引用者。それにしても、そうそうたる顔ぶれだ。

*2:http://d.hatena.ne.jp/Prodigal_Son/20090527/1243413027

*3:太字強調は引用者。ちなみに第一部の対談は石原慎太郎都知事櫻井よしこ氏である。

*4:取り上げたドキュメンタリーの感想エントリはこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20090713/1247523972