法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『百花繚乱 サムライガールズ』第壱話 はじめての忠

ホビージャパン40周記念作品」である『百花繚乱』をTVアニメ化したもの。
冒頭で、主人公達の生きる地域「大日本」を「美しい国」と呼び、その美しさを羨み欲した列強諸国が「悪鬼羅刹の侵略兵器群」でおかそうとしていると語られる。
周辺各国から侵略された歴史を描くにあたって、文永ならぬ「文栄十一年」に『蒙古襲来絵詞』を模した絵を、「華永六年」に黒船来航を思わせる蒸気船を、「将和二十年」にB29に似た爆撃機を、それぞれ描いていく。一方で「大日本」の地図には北海道までふくまれている*1


先日にzeroes氏が批判していたが*2、たしかにアバンタイトルの世界観説明が痛い。
歴史修正主義に直結する欲望があるというより、かなり無自覚に表現しているように感じられる。ひねりを入れずに美しい国として日本を描いてしまう自己愛と、現実の歴史を素材として用いる創作技法を安易に組み合わせることで、無駄に被害者意識な世界観が作られてしまった。「大日本」の位置づけは公式サイト*3の「あらすじ」からも確認できるのだが、その説明を歴史を模した具体的な映像に重ねることで、アニメでは印象が強くなる。自分の住む社会を美しく描くことは物語の定型ではあるが、そのことへの葛藤はほしいところ。


何より問題なのが、アバンタイトルの説明に、第壱話の時点では全く意味がないところ。
物語は、徳川幕府政権が運営する学園にやってきた主人公が、ひょんなことから豊臣側の学生達と出会い、徳川側と対立してしまうまでを描く。どう考えても「大日本」が侵略されてきた歴史を語る必要はなく、説明するなら徳川政権が現代まで存続している設定を優先するべきだろう。
常に国家が侵略されてきたという歴史説明が後の展開で必要になるなら、それまでに時間をとって説明すればいい。徳川政権が存続している歴史を前提にして架空性を強調することもできるし、時間が限られる初回アバンタイトルと違って「悪鬼羅刹」といった表現で単純化せずに他国を描く余裕もあるだろう。徳川政権が続いている設定らしいから、朝鮮出兵などについても白を切ることが難しくないはず*4


作画は整っていてよく動くし、墨絵調の描線に和紙風味のフィルターをかけた映像が独特で面白い。殺陣もきちんと組み立てられている。
少年の前に少女が降ってくるという古臭い出来事でも、時系列をずらして面白く見せる構成も工夫がある。主人公の少年が主人公たることを設定ですまさず、きちんと物語内で能動的な言動を通して表現しているところもいい。
ほとんどの少女達が半裸で、性的な表現も率直に見せる欲望充足ぶりも、まあいいだろう。
全体として、初回で描くべきところは描ききりながら、個性ある作品となっている。だが、それゆえにアバンタイトルの無邪気さが気にかかった。

*1:沖縄全島は見当たらない。

*2:http://d.hatena.ne.jp/zeroes/20101004/p3

*3:http://www.hyakka-ryoran.tv/

*4:鎖国が続いている設定など、色々と他にも説明できる。