夏休み、さびれた旅館への人助け、くわえて怪談。三題話のごときアニメオリジナルストーリーだが、同じ秘密道具が登場する原作短編のいくつかを混ぜ、一つの物語に再構成している。
気づいた範囲でいうと、まず『21エモン』とクロスオーバーし「カムカムキャット」で客を集める単行本32巻「オンボロ旅館をたて直せ」から、多くの描写を引いている。夏休みに外泊したのび太達が「つめあわせオバケ」に助けてもらい、からんできたジャイアンとスネ夫が恐がる展開は単行本31巻「つめあわせオバケ」から*1。招き猫をモデルにした秘密道具でたちよった客の一人が批評家で、その評価のおかげで客が押し寄せる結末は単行本37巻「カムカムキャットフード」から。
結果として、『21エモン』の「ゴリダルマ氏来る」*2とほぼ同じ内容となってしまったことが藤子F作品ファンとしては苦笑い。
コンテ演出は宮下新平で、作画監督は吉田誠と志村隆行。原画には『鋼の錬金術師FA』の作画監督として活躍していた大城勝や、渡辺歩コンテ宮下演出回でおなじみの、そーとめこういちろう。さらに、渡辺コンテ宮下演出回に登板した偽名っぽい原画マン「一郎」「二郎」*3に続いて「吾郎」の名前が。だから誰だよ。
ともあれ、映像の見所は多い。今回限りのホテルや旅館が設定されながら、背景美術がずいぶんとがんばっている。モデルとなった建物があるのだろうか。さびれた旅館の風情を出すため何気ないカットを積み上げていく演出もていねいだし、水中から見上げるカットなど面白い構図もある。旅館の主人がオバケのように登場する場面でカメラ揺らしをしていることも、『ドラえもん』の演出としては珍しい*4。
のび太達がクライマックスに泣き出す場面も、芝居作画や撮影効果がこっていて映像に力がある。この場面が先にあるから、のび太が次の朝に放心しているカットとで、映像に抑揚があるところも良い。
全体として、内容に新味は少ないが結果として藤子F作品らしさはあり、物語もまとまっていてツッコミどころが少ない。映像面も見所が多いし、アニメオリジナル回としては面白い部類に入るだろう。
あと、番組最後の「ここにもかけたよドラえもん」が、頭髪を剃ってドラえもんを描くというありえない領域に達していたことには爆笑した。無茶振りをつきつめることで、結果的に純粋なアートとして面白い企画になっている。