法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

田母神俊雄氏にとっての「バカ」の基準

辻田真佐憲氏がインタビューした文春記事で、全3回が公開されているが、1回目の範囲だけでも興味深いところがいくつかある。


そのひとつが、マルクスかぶれの友人への反感と、その原体験となった父親の共産党観について、田母神氏が語るくだりだ。
あれから10年 田母神俊雄が語る「田母神論文事件とは何だったのか?」 | 文春オンライン
小見出しに「共産党はバカだから」と書いているから、主張内容への批判かと思えば、まったく違う理由だった。

私は昔から、左の共産主義的考えに毒されることはなかったから余計に。うちの父はいつも「共産党はバカだ」って言っていた。なんでかと言うと、実家の近くに町議会議員にいつも立候補する共産党の人がいたんですよ。選挙に出ると必ず落ちるんだけど、必ず出る。いつだったか聞いたんです、父に。「あの人は、なんで落ちるのがわかっているのに選挙に出続けるんだ」と。その答えが「共産党はバカだから」。これは、私の原体験といえば、原体験なのかもしれませんね。

負けるとわかっていて挑むこと、つまり愚直であることが、ここでの田母神父子にとっては「バカ」なのだ。しばしば社会における賢さの基準が、論理の精緻さや直感の正しさや知識の深さではなく、勝ち馬に乗る処世術の巧みさに求められるように。
インタビューの口ぶりから考えて、たとえ落選したとしても立候補すること自体が政党の宣伝になるという推測は、田母神父子には難しいようだ。実際は田母神基準でも、共産党はそれなりの合理性をもって動いている。
ここで語られる「バカ」の基準は、少し前の東洋経済オンラインでインタビューされた34歳の貧困男性の投票基準を連想させる。インタビュアーに複数の疑問をぶつけられているように、奇妙な論理であることに変わりはないのだが。
34歳貧困男性が「今が幸せ」と感じる深刻原因 | ボクらは「貧困強制社会」を生きている | 東洋経済オンライン

勝利しそうな政党や、当選しそうな候補に投票するという。理由を問うと、カナメさんはこう説明した。

「自分に世の中を見る目があるかどうかを確認するためです。事前にニュースとかを見て、勝ちそうだと思うところに入れる。結果、その政党や候補が勝てば、自分には世の中の状況を見極める目があるってことになりますよね」


文春インタビューに戻ると、他にも「バカ」の田母神基準がうかがえる主張がある。

日本が今持つべきは攻撃力です。相手を攻撃する能力がなければ抑止力になりません。私はよくプロレスラーに飛び掛かるバカはいないと言っています。

ここでもやはり、不利益を選ぶことを単純に「バカ」と評している。広い世界には「バカ」が存在しうることを考慮することができないらしい。
ただ、直後に北朝鮮も「バカ」ではないと考えて、実際にはミサイルを撃つことはないと考えているあたりは、ある種の一貫性はある。

北朝鮮の場合、アメリカや日本に向けてミサイル撃って戦争を仕掛けても、儲からないことは目に見えている。そんなことしたら、北朝鮮は余計締め上げられるだけなんです。アメリカだって同じ「金儲け」の論理から北朝鮮を先制攻撃しないわけです。


前後して語られている田母神氏が更迭される原因となった論文と考えあわせると、大日本帝国の立場が味わい深くなるのも興味深い。

私は亡くなられた渡部昇一先生や小堀桂一郎先生がおっしゃっているのと同じ論を踏まえているわけです。間違っているとは思いません。

大日本帝国は米国という勝ち目のない超大国に戦いをいどんだ。その歴史について大日本帝国が不利益を選ぶ「バカ」ではなかったと合理化するため、陰謀に騙されるという別次元の「バカ」と主張したかったのだとしたら……これもまた、ある種の一貫性はあるのかもしれない。