法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

そうか、本当は実感していたのか

革命的非モテ同盟跡地*1

しかしながら、表現の自由の原則に係る問題としてこれを取り扱うならば、「かくかくという作品はしかじかという理由で優れているので護るべきだ」という議論は、優れていない作品を切り捨てることになりかねません。表現の自由という基本的人権が、おおよそすべての表現に対して平等にあるというならば、そのような議論は無理筋です。

「ただし、最初から一般向けゲームとして作ればいいというような、見当違いな意見も出される危険はある。エロマンガ紹介をめぐって、永山氏が枡野氏へ指摘したような問題もある。評価しやすい作品を残すようにしては、評価されにくい方向性の作品が切り捨てられかねない」と注意していることを読んでもらわなければ困る。
「戦術」として無理筋とは思わないが*2、危険性があることについて争いはない。

最後に私の
革命的非モテ同盟跡地
こちらで申し上げた、一連の経緯および表現の自由の線引きに関する議論について、反論がありませんが、ご理解いただけましたのでしょうか?

本題ではないエントリだから言及しなかったのだ。
今回は本題に戻すので返答しておこう。furukatsu氏にとって、様々な背景や流れが存在することを否定はしない。私は「一因」と指摘したのであって、いってみれば話題を件のブックマークコメント以降の文脈に限定するという宣言だ。
当該ブックマークコメントに対する私の読解が誤っている、あるいは「経緯」に明らかな理解不足があるといえるだけの文脈を示さない限り、反論する必要はないだろう。


さて、私にとっての本題は、戦争に対する実感の問題だ。
はてなブックマーク - 実感が持てないことは問題提起になっても釈明にはならない - 法華狼の日記

furukatsu 軍事 私は、もう、戦争の凄惨なルポタージュを読んでも損耗比や防疫のことしか考えられないんですよ。それは、私が軍ヲタだから。感情は目を濁らせる。 2009/06/21

フィクションならば目が濁ってもかまわないという考えで『Kanon』を持ち出したのならば、それはそれで一つの見識かもしれない。
しかし、意識的に実感しないようつとめているなら、「そこが理解できないんだ。70年前死んだ中国人のことを本気で思うことは出来ない。よっぽどkanonの方が実感があるんだ。現実の政治問題としてのポジショニングは理解出来るけどね」という表現にはならないだろう。
「理解できない」「本気で思うことは出来ない」という表現だけを抜き出せば、furukatsu氏の持つ規範のために「出来ない」と解釈することができなくもない。だが、「よっぽどkanonの方が実感があるんだ」と比較して実感の大小を語ったこと*3、および以降の発言から判断して、実感するかどうかを意識的に選択しているわけでないことは明瞭だ。


ちなみに、物語のような実感できる表現で歴史を読むという態度について、Apeman氏は「つくる会」への批判的見地もあって禁欲的であるべきと発言している*4。対して私は、物語として歴史を読むことに危険があるという意見に妥当性を認めつつ*5、物語という形で精緻な学問でとらえきれない出来事や心情をすくう価値を強く信じている。もし歴史の物語化を否定することがfurukatsu氏の真意というならば、私よりApeman氏に考えが近いといえなくもない。


さて、furukatsu氏へ初めて言及したエントリ*6とも直結する問題だが、なぜ「軍オタ」という自己認識を理由として損耗比や防疫に注目しながら、虐殺の規模や虐殺が起きた経緯をしりぞけられるのだろうか。南京大虐殺から派生した話題だというのに。「軍オタ」が軍事一般への興味を持つならば、規律や兵站不足といった要素も興味深く感じておかしくないはずだ。
撃つ側の、それも指導者側の発想ばかりに目が行くのは、ただ「軍オタ」であるというだけでなく、さらに細分化された欲望があるのではないだろうか。
本当のところ、furukatsu氏自身も気づいているのではないか。冷静でいられる視点でのみ歴史を見る態度は、とうてい冷静とはいえない。むしろ、感情をかきみだされるからという理由で情報を拒絶するほど感情的な態度はないのだ。

*1:太字強調は原文ママ

*2:フィクションが自身の架空性を注記するように、優れていないと社会的に見なされる要素を批評が指摘し解題することは、むしろ表現物を残す作用がある。いくつかの差別的なノンフィクションが、歴史的事物としてや引用で流通しうるように。

*3:意識的な選択ならば、“kanonなら安心して実感できるんだ”といった表現になるはずだ。

*4:http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20090602/p1のコメント欄。ただし、「結果として優れたフィクションが効果を発揮することを忌避したりする必要はないと思います」ともコメントしており、全否定しているわけではない。

*5:コメント欄で物語化の危険について話をふったくらいだ。

*6:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20090606/1244391133