http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20080703/1215052052
SS*1としては普通だ。あえて安っぽい描写や設定を入れて読者の突っ込みを誘うところもふくめ、ネット小説では一般的な作り。
文章についても、もっと読みにくいネット小説が多いことを思えば、けして悪い部類ではない。冒頭の「パシュー」については、オノマトペそのものの可否というより、使うタイミングの問題だろう。知る限り、ライトノベルで冒頭から擬音語を使う作品は少ない*2。それなりに擬音語を用いる文脈ができあがっているように感じる。
また、展開と関係のないディテールの甘さは横に置き、物語の根幹となっているゲーム理論はSFで使われることが少なくない。異星人との遭遇を描く「ファーストコンタクトもの」でよく使われているはずだ。一例として、山本弘『サイバーナイトII』において人類と異なる知性体の行動理念でゲーム理論が中核をなしていた。むしろ、ゲーム理論こそ『宇宙戦艦アキバ』でSFらしさを感じる数少ない描写だ。
キャラクターは類型的かもしれないが、役割がはっきりしているので、よろしいのではないだろうか。むしろ明らかにキャラクター小説ではないため、全くライトノベルらしいと思えない。記号としてわりきった描写は星新一的というべきか*3。
問題なのは、ゲーム理論にいたるまでの展開が不自然すぎるところ。
まず、自動で敵を追尾できるのだから、有人で宇宙戦艦を体当たりさせる必要はない。脱出装置として使うポッドなので、入られる人数が限定されている設定と補完するのも難しい。むしろ自動操縦能力を設定するべきではなかった。一人を残して退艦できるという描写のためには、別の設定が必要だ。少し前にトリアージ論争*4があったばかりなので、かなり不自然さを感じた。
次に、どんでん返しのところで唐突に特攻とチキンレースが混同されたこと。むしろ、敵に避けられたら負けるので、どう予知能力に対抗して*5特攻という手段を隠すのかと思っていたら……主人公側が意識的に避けない限り勝つのなら、やはり有人で体当たりする必要はない。相手の軌道をそらしさえすれば勝てるのなら、衝突直前で脱出したりしてもいいだろうに。
最後に、超能力という設定も作者が自由に扱いすぎている。超能力を取り入れたSFは全く珍しくないが、効果範囲等がSSに全く書かれていないのは、少しばかり困るところ。
結末へいたる道筋に穴があり、それも根幹に近い部分なので、現状のままではバカSF好きから見ても評価はしにくい。
アイデアは悪くないから、状況設定を変えて細部を詰めれば面白いSSにできるかもとは思う。