法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

小倉秀夫弁護士は風変わりな人と思わないでもないが

刑が重くなったのは手を抜かない弁護士が悪いからだと裁判所が言ってのける社会では刑事弁護などやっていられない。: la_causette
この見解が現実に妥当かどうかは別として、似たような感想はいだいている。
これに対して、弁護士の一面についてのみから反論するエントリがあった。
http://d.hatena.ne.jp/pbh/20080425/1209096802

弁護士の仕事ってクライアントに同情したり「うんうんそうだよねー」って何でも同意したりする事じゃなくて、クライアントにとって出来るだけ条件の良い結果を勝ち取る事なんじゃないの?

まず「クライアントにとって出来るだけ条件の良い結果」が何なのか、実際は確定しがたい。
もし真実*1を証言すれば不利になるのだとしても、正直にしゃべることが依頼人の希望という場合もあるのだから。

 クライアントの言い分を「親身」に聞いてやって「僕は君の言うこと全部信用しているよー」ってだけで弁護士の職務を全うしてるって言えんの?

弁護士は依頼人の主張を法廷に使えるよう翻訳する役割を持っている。少なくとも依頼人の意向を無視していいということはない。
もちろん、依頼人の主張を法廷で出さないことが被告の利益になるなら、弁護士は主張を隠してもいい。しかし、逆は真ではない。先に書いたように、依頼人の言い分を愚直に法廷へ提出することもまた弁護士として立派な業務である場合も存在するのだ。
何より、光市母子殺害事件弁護団依頼人の主張にそって、物証や鑑定を集めてもいる*2。被告の主張について全く真偽を検討していないかのような文章は感心しない。

裁判官は「おめーらの主張してる事は全然整合性も無いし荒唐無稽なんだよ」って指弾してるんじゃあないの?

小倉弁護士は裁判官の指弾の仕方について批判的な感想を書いている。その裁判官の指弾をもって小倉弁護士の感想を批判することなど、できるはずがない。
また、判決では被告人を対象としている体裁をとっており*3、「おめーら」と弁護人まで直接的に指弾する内容ではない。いや正確には、さすがに弁護人までは指弾していないのに、細部では弁護人も指弾されていると受け取られかねない判決であることに対し、小倉弁護士は問題視していると考えるべきかもしれない*4
しかしid:pbh氏は、他のエントリを見る限り弁護士が被告の主張にそわなければならないことは理解しているようでもある。なぜ小倉弁護士のエントリに対して誤読したのだろうかと首をかしげる


違う話題になるが、小倉弁護士は、かつて対立していた切込隊長の弁護人となった一件を思うと、わりと「おまえが被害者になったら云々」*5への反証を体現している弁護士の一人なのではないかと思ったりもする。騒動の全てを追っていたわけではないので、実際には違う見方が正しいのかもしれないが、思い出したから書いておく。

*1:物理的に不合理な主張でも、様々な経緯で主観的に真実となる場合がある。光市母子殺害事件でよく取り上げられる『ドラえもん』『魔界転生』についても、幻覚を要因とするより真実と受け止めがたいとは、けしていえないと思う。

*2:その証拠がどの程度まで説得力や妥当性があるかは別だが、それでも被告主張にそった限りで最大限に近い努力は行ったと評価していいだろう。

*3:公開されている判決要旨から読み取る限りは。

*4:被告人が主張を変えた動機を指摘するあたりで、判決はかなり問題ある書き方をしているように思う。

*5:http://d.hatena.ne.jp/pbh/20080425/1209105631より。このエントリに対しては、おおむね同意。