法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太隊長にけい礼!/天才・出木杉のロケット計画

まずは、Bパートの『天才・出木杉のロケット計画』。原作は25巻。
スペースシャトルが2度事故を起こして問題点が多々指摘される前に描かれた原作を、忠実にアニメ化。制作者の意図ではないだろうが、微妙に重いものを感じる。ちなみに「シャトルは衛星軌道との往還船にすぎず、異星に行くための宇宙船ではない」という細かいツッコミは原作通り。
映像的には、ロングショットを多用し、かなり映画的なレイアウト。Aパートと同じ前田康成コンテだが*1、完成度が格段に違う。ドラえもんのび太が空中を飛び回る中盤は、空間を感じさせる作画演出が楽しめた。のび太制作のシャトルジャイアンがのぞきこむ場面も、地味に面倒なカットを自然にこなしている。
もともとこの話は、短編原作の中では派手な展開で、後半には見慣れた風景を異星のそれと交換するという視覚的なギミックが用意されている。ゆえに映像としての良さが、そのまま作品としての良さに繋がった。
リニューアル後『ドラえもん』で久々の、原作を活かした佳品だった。


次に、Aパートの『のび太隊長にけい礼!』。原作は15巻。
軍隊を皮肉った物語なのだが、原作からの変更に首をひねる点があった。
原作*2では終盤に、無茶な命令をされた者が「昔の軍隊は、こんなふうにむちゃな命令で、むちゃな戦争をはじめたんだね。」と愚痴る場面がある。主題に深く関わる台詞であり、使わなかった意図がわからない。
さらに原作では、命令された者はそのたびに直立不動の姿勢を取っており、階級ワッペンも現実的なデザインだったが、そういった細かいこだわりもアニメでは見られない。


ただ、軍隊の現実味を消した結果*3、弱者つまり「のび太が求める戦争」の非現実性を強調しているといえなくもない。実際、先週の次回予告テロップで使われた「格差社会」等からは、「希望は、戦争」と唱えた赤木智弘氏を思い出した。当然、一時的に無茶な命令をくだせる立場になったのび太は大きなしっぺ返しをくだされるわけで、しょせんワッペンで表現されるような薄っぺらい希望でしかない。
また、命令の無意味さについては原作以上の表現がされている。何の意味もなく空き地に穴を掘らせ、そして埋めさせるなどという現実に存在した拷問まで登場して、黒い笑いを生んでいた。


ちなみに原作*4では、階級ワッペンのモデルは「昔の日本陸軍」と明言している。

わざわざ階級名までていねいに説明し、「それにしてもこの藤子、ノリノリである」とコメントしたくなる画像だ。
画像の左端が切れてしまっているが、見える階級章からわかるように、准士官曹長・軍曹・伍長・兵長上等兵一等兵二等兵まで、ずらりと並ぶ。

*1:演出も作画監督も共通で、異なるのは原画スタッフと脚本のみ。

*2:123頁

*3:「イエッサー」と叫ばせるあたり、現実味というより日本軍臭を消しているととらえるべきかもしれない。

*4:118頁