法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

歴史修正主義に気をつけないとフィクションを楽しむことさえ不便

南京事件という争点から外れて多くの歴史マニアから反感を買う発言と思ったが、すでにfromdusktildawn氏は謝罪し議論から撤退しており、批判するつもりはない。
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20080104/p5#c1199426510

友達との会話やテレビの動物番組を楽しむのさえ、進化論を知っているのと
そうでないのでは、ずいぶん違います。

しかし、別に南京事件の歴史解釈の詳細をしらなくても、
友達との会話やテレビ番組が楽しめなくなることなんて、めったにありません。

進化論を知っていると動物番組がより楽しめるのは、それは当然だろう。
ならば、南京事件について知っていれば歴史や戦争のドキュメンタリーがより楽しめる*1と想像できないだろうか。持っている知識と比較し、類似点や相違点によってより深く読解することが可能になる。
そして問題はそれだけではない。歴史解釈の詳細を知る必要にせまられなかったfromdusktildawn氏は幸運なのだ。


コードギアス 反逆のルルーシュ』というアニメがある。
大英帝国や現代米国を思わせる大国「ブリタニア」が世界中に侵略の手を広げ、日本もまた植民地となり圧政を強いられている設定だ。占領された日本は「イレブン」と呼ばれ……つまり「11」という番号をふられ、固有の名を奪われた。
この植民地描写のモデルには、日本や朝鮮半島がモデルという発言が制作者側からなされている。竹田菁滋プロデューサーが雑誌『アニメージュ』で答えたものだ。この発言により、『コードギアス』での名前を奪われたというモチーフは創氏改名を念頭に置いてのことといわれている。
念のため、創氏はまぎれもなく一律強制であり、形式的に自由だった改名も圧力や宣伝を用いてようやく広まったものだ*2。創氏を戸籍管理するためだったからと、植民地の人々にとっても便利だったと擁護する者もいる。しかしそれならば『コードギアス』のように植民地に番号をふるのも、それはそれは「便利」なことだろう。
歴史にくわしくて普遍的な問題への視野を持っていれば、さらに多くの類例を引き出せる。アフリカ大陸の国境線に直線が多い理由、東海道北陸道に続けた北海道という名称、等々。虐げられた人々と名前の関係性でキャシアス=クレイ等にも思いをはせられるかもしれない。歴史を知っていれば、その分だけ設定が楽しめるようになる*3
話題性を得ようとした悪趣味さも感じないではないが、日本の朝鮮半島侵略を日本が侵略される話に置きかえる意図は、けしてわかりにくいものではない。歴史を普遍的に見ようとする態度だ。


この朝鮮半島がモデルという発言に対しては、様々な反発があった。
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/818732.html*4
コードギアス』は超能力、ロボット、キャラ萌え、悲劇、コメディ、作画*5と、様々な視点で楽しめるように作られている。おかげで、歴史修正主義者や差別主義者にも作品ファンは少なくない。しかし「創氏改名」のような設定に対しては、見なかったことにしたり、自分とは関係ない世界の話として受け取っているようだ。


民族・国家差別と容易に結びつく歴史修正主義は、創造論より物語鑑賞の目を曇らせる機会が多いと思う*6。ネットで流布される量も段違いだ*7ならば対応策として歴史に対する見方を知っておくのも、けして無益ではないはずだ。
もちろん作品のどこに興味を持つかは個々人の自由。しかし作品を構成する要素に対して誤った知識で反感を持っては、あまりにももったいない。

*1:嫌悪感を持たれるだろう表現だが。

*2:自発的な者がいたことだけでは、強制性を否定できない。

*3:もちろん、設定に対して考証の不自然さを指摘するのも一つの楽しみだろう。

*4:韓国人が一律に日本占領描写を喜ぶと思い込んでいる書き込みは、国家を敵味方でしか把握できない愚かさゆえかもしれない。また、歴史修正主義とは関係の薄い問題だが、政治的に注目が集まる組織や場所に近づけること自体も報道人としては誇って当然だろう。

*5:個人的には少し食い足りない。スケジュールの悪さが足を引っ張っていたのか、参加アニメーターの実績から期待してしまうほどの作画はあまり楽しめない。

*6:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070615/1181869069等々

*7:日本が宗教的に反進化論と親和性が少ないという理由もあるだろう。