法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『UFO大通り』島田荘司著

表題作と『傘を折る女』の中編2作を収録した本格推理小説。それぞれ独立した作品ではあるが、表題作に『傘を折る女』の前振りとなる情報があり、順番通りに読むべきだろう。


それぞれ作中の年代が異なるため、名探偵の御手洗潔をめぐる環境や評価の変化というキャラクター小説的な面でも楽しめる。ワトソン役石岡一巳の知性退行ぶりにも泣ける。


巻頭では故鮎川哲也氏へ捧げる文がかかげられている。端正な論理パズルに全てを賭けた鮎川作品と、大袈裟さな謎と社会問題を主題にする島田作品は同じ作品ジャンルでも距離があって意外だ。とはいえ、考えてみると島田氏は鮎川哲也賞長編部門の選考もしていた。
ちなみに来年の干支とは関係ないが、ネズミというかハムスターが登場し、かなり本筋にからんでくる。


以下は、ネタバレありの感想。
『UFO大通り』は島田荘司作品らしく、奇想天外な密室殺人を差別主義者の刑事が捜査する視点で始まる。本編に入ってからは宇宙人による戦争と、さらに謎のスケールが巨大化、新たな殺人も謎だらけで、しかし全てきちんと現実に回収される。
しかし困ったことに、鮎川哲也選考および編集による応募アンソロジー文庫『本格推理』にメイントリックが共通する短編が存在し、簡単に真相がわかってしまった。だから鮎川哲也氏に捧げたというわけでもないだろうが。真相がわかっていると少しも驚けない謎なので、楽しみの多くが削がれた。
また、宇宙人による戦争は合理的に解けたと考えても、UFOの解明はあまりに本編とからまなすぎ。目撃した老婆がUFOの正体に気づかないのも奇妙。


『傘を折る女』は、比較的地味な日常の謎から『9マイルは遠すぎる』ばりに論理を広げ、小さな引っかけを入れて端正にまとまる。なるほど、鮎川哲也氏に捧げるだけはあると思える作品だ。
しかし推理の面白味より、女性の嫌らしさを粘着質に書く別視点パートに圧倒された。