法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

今さらながら橋下徹弁護士の答弁書について

橋下弁護士がブログにおいて答弁書のPDFファイルを公開している。
http://hashimotol.exblog.jp/6499360/
90頁にもなる枚数であり、ファックスで送った非常識さへの居座りは、批判の種ともなった*1
しかし答弁書は数が多ければいいというものでもなく、まずは様子見という感じで最低限の内容にとどめ、後から補足するべきではないか、とは小倉弁護士からも指摘された*2。その意味では、70頁でテレビ発言と懲戒請求の因果関係を無根拠に否定していることは、作戦として悪くないかもしれない。戦略から戦術まで間違っている*3から、小手先の作戦が良くても勝てない気はするが。
そしてそれなりにまとまった前半はともかく、後半まで読んでいくと、一般人の極一部*4にのみ向けて書いている気がしてきた。それくらい驚くべき文章がそこかしこにあった。


まず、光市母子殺害事件と無関係なオウム裁判が書かれているので首をひねっていたら、41頁から無茶苦茶な連帯責任論が展開された。
安田弁護士などは限りなく冤罪に近い*5裁判の被告に立たされた時、日本弁護士一割以上にあたる2000人以上の弁護団が結成された。その一割以上の弁護士も連帯責任をかぶせられるわけか、もしかして。


次に驚いたのが48頁。説明責任*6守秘義務が衝突することに対し、「頭を下げれば」と説明。
なるほど、記者会見においてひたすら一審二審の弁護人を批難し、弁護内容を変更するとだけ伝えて頭を下げ続けるだけならば、プライバシーの侵害にもならないだろう。……どうやら橋下弁護士が主張していたのは「説明責任」ではなく、“謝罪義務”とでも呼ぶべき代物だったらしい。
たとえば冤罪事件で主張を変更する時、常に記者会見を開いて弁護人は謝罪しなければならない世界。あるいは負担の大きい刑事弁護の合間に謝罪会見を開くため、裁判の進行に遅延をきたす社会。どうにもディストピア小説の設定としか思えない。だいたい毎回のように謝罪会見を開いたりするくらいなら、一般人の側が弁護活動について知る方が時間の節約になるのではないか。
しかも以前の橋下弁護士弁護団に「公開バトル」を呼びかけていた。議論を戦わせるとなると、具体的な弁護内容にふれざるをえないだろうに。それとも一方的に弁護団の頭を下げさせて、勝利宣言をするつもりだったのだろうか。


一番の驚きは73頁だ。
宮崎哲弥勝谷誠彦三宅久之を「全国に名を馳せている」と称賛。さらに、やしきたかじんを「何十年もメディアで活躍」と賞揚。このような文章に好感を持つのは『そこまで言って委員会』を肯定的に見る一部視聴者だけではないだろうか。
もっとも、さすがに具体的な言動を引用しての肯定はできず、「世間の声に敏感」などという誉め方しかできていないようだ。実際の番組で、橋下弁護士が訴えられて即座にトーンダウン*7したのを見ると、世間の声に敏感な番組なのは確かかもしれないが、それは一般の目からすれば発言に信用がおけないというだけでしかない*8


79頁にいたっては、文学的な表現が飛び出してきたことに驚愕した。
「1億3000万人の国民が,弁護士会に対して信用を失ったと言っているのに,」……その「国民」には法曹関係者や安田弁護団の立場を理解する人まで入っているのだろうか。たかだか4000通ほどの懲戒請求、しかも複数出している人がいることを考慮すればさらに少ない人間しか実際に行動していないというのに。それともマスメディアを通しての印象論で語っているのだろうか。
ちなみに、弁護士会の人間を入れても、日本の現人口から考えると1億3000万人に達しない。もちろん自分の意志を示せない赤ん坊などを考慮すれば、文学的な誇張だとわかるが、答弁書でこういう文章はかなりまずいと思う。


そういえば橋下弁護士自身、今回の裁判では第一回も第二回も出頭しないという。
http://hashimotol.exblog.jp/6524676/

第1回期日は擬制陳述といって、法廷には出頭しません。言いたいことはすべて答弁書に書いたので、この答弁書の提出によって法廷で陳述したものとみなしてもらいます。第2回期日は、電話会議システムを用いるので、これまた出頭しません。

マナーとしては法廷で顔を合わせるくらいはしてもいいのではないだろうか。公開バトルを呼びかけていたくらいなのだから。
あと、原告側の主張も聞かないと判断が難しいが、「こっちも、原告らのぞろぞろ代理人に付き合ってる暇はねえから、お前ら勝手に来年まででも期日の調整をしてろよ!!」という怒りは弁護士の目線でなければ自然かもしれない。しかし……
http://hashimotol.exblog.jp/6502867/

ちなみに、裁判所は、ファックスを受け取ることは仕事だと考えてか、クレームは言ってきませんでした。
僕が訴状を受け取ったのが9月6日。書面提出期限が20日。
僕もいつもどおりに仕事をやってるから、90枚の書面を書いて、
20日までに郵送するのは無理だろうと常識的な判断をしてくれたんだろうし、
まあ官庁だから一々事前の連絡をもらわなくてもいいだろうと思ってくれたのかもしれません。

この郵送しなかった理由も「内部事項」にすぎないような。人間は私をふくめて自分に甘いものだから、多少はしかたがないとは思うが。

*1:http://b.hatena.ne.jp/entrymobile/5964922原告に対してはともかく、裁判所へのマナー違反はいいわけができないだろうと思う。裁判所から何も言ってこなかったから良いという話ではないだろう

*2:http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2007/09/post_e760.html

*3:少なくともネットで多くの専門家から問題を指摘されている。

*4:具体的には『たかじんのそこまで言って委員会』を見て安易に懲戒請求を出すような人。

*5:一応は裁判が続いているので断言はしないが、裁判所から検察の手法に問題があると明言されてすらいる、かなり無茶な裁判。

*6:この存在を主張しているのは橋下弁護士独特の考え。

*7:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070910/1189381317

*8:そして、やしきたかじん達の腰砕けぶりは「世間の声」が流動しやすいことも示している。