法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ルパン三世SP〜霧のエリューシヴ〜』

〜思ったよりは良かったものの〜
テレコムが深く制作協力しただけあって、作画は古典的ながら安定して高く、アイキャッチ大塚康生御大も価値があると思うが、美術設定やコンテ演出のアイデア構図に全く面白味がないので映像全体で見ると今一つ。撮影彩色のデジタル臭さも足を引っ張っている。
未来世界や過去世界の嘘臭さも、現代のアニメとは思えない。過去のルパンアニメよりも表現が後退している。


時間移動は明確な変更型。実は、過去や未来の描写から受ける印象ほどには誤りが少ない。先祖を消せば子孫が消えるだけでバタフライ効果が起きないのも、世界ができるだけ変化を拒否するというSF設定と考えれば問題ない。少なくとも、作中では過去操作による変更の法則が一貫している。
最初から無かったことにされた人間が消えているとルパン達が感覚することは一見すると不思議だが、魔毛が驚かすため変更後の並行世界に移動させたのだろうという推測が成り立つ。タイムマシンに乗らない人間でも時間移動させられることは明確に描写されている。
岩が消える様子を魔毛が目撃した描写も、演出の範疇として許される程度だろう。他がほとんど変更型であることに対し、岩の消失は循環型になっているが、これは並行世界を移動していく時に、偶然にも重なる現在……つまり過去から見た未来に行ったと思えば問題ないだろう。


時間移動描写での問題は、話の本筋がつまらないため、時間移動の展開を追う気がなかなか起きないこと。時間移動SFで批判を回避する方法として以前に書いた、登場人物を頭悪く設定する方法だが、今回のように騙しあう話に適用すると安っぽくなる。ルパンは間が抜けたところがあっても頭が良いキャラクターであり、対する魔毛も初めてタイムマシンを作り上げた者である。いくつもトリックをしかけたルパンはともかく、魔毛の頭が悪すぎる*1。敵の頭が悪いと戦いに緊張感がなくなくなり、主人公の頭も悪く見えてくる。
タイムマシンが制作される経緯にルパンが頭を悩ませる結末も奇妙。変更される前の世界で、ルパン子孫に好きな女性を取られた魔毛がタイムマシンを作ったことは確実。ルパンが悩んでいる世界は変更された後の並行世界であり、魔毛によってタイムマシンが作られる歴史には繋がらない。


土台となる時間移動はがんばっていたがドラマが安っぽい物語、設定やコンテが悪いためにアニメーターが努力しても良く見えない作画と、一方の努力を一方が台無しにしている作品。原案からSPアニメ化する際の齟齬か、制作者が力の配分を誤ったか。


あと、声優としてもキャリアがある中村獅童はさすがだったが、非声優の女性キャラクターは話題性のためと考えても演技がひどすぎる。本当にひどすぎる。

*1:元となった物語でもけして頭は良くなかったが、2時間も延々と頭の悪さを見せつけられるのは話が違う。