連作短編寓話集な、ライトノベルの10作目。タイトルの「X」はローマ数字。
初期は社会のありようを誇張し、極端な問題として提示しつつ、傍観者たる主人公がシニカルに眺めるシリーズだった。が、すっかり枯れてサゲ話とオーソドックスなライトノベルの両極端が混在する話になっていた。
約半分をしめる中編「歌姫がいる国」が、真相も展開も見え見えなのが困った。プロットやキャラが他と比べて突出して悪いわけではないのだが、単純なトリックなために、分かる人は最初に思いつくことが充分に可能だ*1。ミスディレクションが巧い作家ではない。話の転がしかたもありきたり。
あえてあからさまな真相に気づかず行動するキャラクターのドラマを楽しませるタイプでもない。どこまでも寓話であり、登場人物も記号化が激しく、プロットの問題とは逆に感情移入する間もなく話が進む。ゲスト主人公の少年少女、視点人物に近いキノ、どちらも性格が素直かクールかで、葛藤しないためにドラマとならない。黒幕となる背広の男達が見せる葛藤こそ、このシリーズらしい底意地の悪い視点と合わせて見所だが、出番が少なすぎて御都合主義に物語を動かすコマに感じてしまう。
真相に気づく前に一気に読み進められるショートショートが向いている作家なのだろう。
そういった意味では、口絵の2作が最も良かった。インタビューの国は読者サービスみたいなもので、今一つ。
電柱の国も、悪くはない。オチの一ひねりで、宗教の価値などを少し考えさせるところがなくもない。
*1:今回の収録作は特に作りが単純すぎる。せめて2段オチくらいにはしてほしい。