法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スター☆トゥインクルプリキュア』第47話 フワを救え!消えゆく宇宙と大いなる闇!

双方の戦線が崩壊し、ノットレイダーの残党は星空連合に救助された。一方、正体をあらわした蛇使い座のプリンセスは、他のプリンセス12人を拘束する……


今回も村山功シリーズ構成の脚本だが、最終決戦をもりあげる苦しさを感じた。
これまで各話で物語をまとめつつ、前回にダークネスとの真意がノットレイダー各員のドラマと分断されたため*1、新たな対立構図を示すために怒涛の設定開示がされた。
その設定は前回の予想とは少し違っていたし、興味深い説明や描写はそれなりにあった。艦隊内で治療されるノットレイダー各員の素顔が多様なことと、彼らが戦いに向かう決意で無個性な戦闘員のマスクをつける逆説。シリーズのタイトルを「pretty」の「cure」という初代の意味ではなく「pre」の「cure」とこじつけたのも面白い。
特に良かったのが、地球から見える形でしかない十二星座がプリンセスになっている理由。十二星座のイマジネーションが先に存在して、それゆえ地球もふくめた各星が文化として持っているという説明には感心させられた。
さらに、妖精フワが「器」として十二星座のプリンセスに道具あつかいされる結末も印象的だ。『フレッシュプリキュア!』の妖精シフォンと同じくらい唐突だが、比べて自己犠牲のドラマになっているだけでなく、味方の神格すら主人公たちとは価値観が違うという絶望感があった。


しかし、説明内容に面白さがあるといっても、主人公たちが変身して現場に到達した後半で、ひたすら設定説明を聞きつづけるのは、さすがに映像作品として問題がある。マニア向けアニメの長い設定説明なら好きなことも多いが、それらはたいてい長々とした台詞を語るキャラクターがそれを許す状況に置かれた時に描写されるものだ。
せめて、プリキュアとノットレイダーが現場に向かうのと同時並行で、蛇使い座のプリンセスが現場の光景を宇宙に投影して演説し、それを聞いたプリキュア側の言葉を十二星座のプリンセスがテレパシーでつなぐ……みたいな描写にすれば、棒立ちで説明を聞きつづける不自然さは軽減されたと思うのだが。

『ドラえもん』なんでもエーアイアイ/役立つもの販売機

サッカー予選番組にあわせて、ドラ顔ジャンケンにサッカー解説者が参加し、本編終了後にサッカー選手の意気込みと『ドラえもん』の名台詞をかさねたプロモーションが流れた。
それとは別に、EDが今年の映画の主題歌PVにさしかえ。どれも出来は悪くないが、あまり正月気分はなかったかな。


「なんでもエーアイアイ」は、ぐうたら生活をしたいのび太に求められ、ドラえもんが手助けするロボットを出してやる。しかしそのロボットは物事を最初に学習させる必要があって……
伊藤公志脚本のアニメオリジナルストーリー。ひさしぶりの鳥羽明子コンテ*1で、ほとんど表情のない「エーアイアイ」の活躍を破滅を予感させるように演出した。
シンプルなダジャレネーミングに、猿っぽさとチンプイっぽさがある「エーアイアイ」のデザインは、ちゃんと藤子Fらしさがある。真っ黒な顔面に目が光るだけという無機質さが、奇妙な不穏感をただよわせていて印象的。
「なんでもエーアイアイ」「役立つもの販売機」|ドラえもん|テレビ朝日

https://www.tv-asahi.co.jp/doraemon_2017/story/0585/images/3hg99tyDks.jpg

のび太の言動もかなり原作らしい。足で物をとるため身長をのばしたいと願う冒頭から、意外と手間のかかる学習にのめりこむ中盤、少しずつドラえもんを邪険にしていく後半、さらに予想外にエーアイアイの限界を露呈*2させる結末まで、見ていて違和感がなかった。それでいて新鮮味がないことはなく、局面ごとに違う性格を見せていくので飽きさせない。
あと、ぐうたら生活は正月と直接の関係はないが、秘密道具がティッシュの指示を誤解して百人一首をもってきた場面に感心。誤解させた指示が自然で納得感ありつつ、季節ネタと感じさせ、なおかつダジャレネタというトリプルミーニング。


「役立つもの販売機」は、十円玉を入れると何か役立つものが出てくる秘密道具が登場。それで出てきたガラクタに首をかしげながら、ドラえもんたちは街へくりだすが……
原作者生前の単行本には未収録な作品を、佐藤大脚本でリニューアル後の初アニメ化。コンテの新井宣圭は作品初参加で、もともとシンエイ動画作品で制作進行していたが、MAPPA作品の演出でよく見る名前。
便箋をむだづかいする発端の紙飛行機は作画もていねいで感心したし、中盤ではゴミバケツに隠れたあたりの視点演出は良かったが、とにかくストーリーがつまらなくて刺激もないのが残念だった。もともと未収録になるくらい完成度の低い話ではあるのだが……
なんといっても、あらかじめ起きる危機を予測して道具を出すというコンセプトが、よりによって直前の「エーアイアイ」と丸かぶりしているのが良くなかった。もともと原作でも完全な危機回避ではなく、かなり予言の自己成就的なマッチポンプなので、「エーアイアイ」と比べて役立たず感がひどい。さらにアニメオリジナル描写の危機回避に納得感がないため、アイテムが意外なつかわれかたをしてもカタルシスがない。
ただ、十円玉で学校の先生が出てきたり、十円玉を回収すると販売機に先生がもどったりという原作どおりのシュールな描写は楽しかった。アイテムの意外なつかいかたよりも、販売機から出そうにないアイテムが出てくる驚きを重視してアレンジするべきだったと思う。

*1:ドラえもん』では2017年にコンテを少し切っただけ。同名の人物が『千と千尋の神隠し』に動画としてクレジットされているが、スタジオジブリ出身なのだろうか。

*2:不可能性を学習していなければ試行してしまう問題は、同じロボットでもドラえもんならば起きないことだ。

『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』

1996年、ボードゲームをひろった少年が姿を消した。それから20年後、地下室の掃除を命じられていた4人の少年少女が、古いテレビゲームを遊ぼうとしたところ、ゲーム世界へ吸いこまれた……


2017年の米国映画。1995年公開の1作目直後から始まる続編に見せかけて、公開年にあわせて現代的なゲーム内アクションを展開。
金曜ロードショーの地上波初放映で視聴した。約2時間の作品を通常の時間帯で放送したので、そこそこカットはされているはずだが、あまり違和感はなかった。
金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ
1作目の記憶はほとんどなく、当時まだ珍しかった3DCGで表現された動物を、破壊されるセットと合成したVFXの印象が残っているだけ。しかし必要な情報は充分に示されていて、続編単独でも問題なく楽しめる。


内容としては仮想現実ゲームの魅力をそのまま描いた実写作品といったところ。本来とは大きく異なる姿で、ゲームキャラクターにそった活躍をしなければならなくなる*1
そうして『ドラゴンボール』よりも命が安い世界で、ちょっとしたトラブルであっさり死んだり殺されたりしながら、少しずつ勇気をふりしぼり友情を深めていく。
たがいに卑下したり見くだしたりしつつ、衝突を長引かせる局面がなく、テンポよく進んでストレスがたまらない。


いかにもVFXを多用した大作のようでいて、設定から感じるよりも低予算で成立できそうな内容だったのも面白い。
外見と内面のギャップは俳優の演技力で表現。舞台となるのはだだっぴろいジャングルで、登場する兵器はバイクやヘリコプターがせいぜい。VFXリソースはほとんどリアルな動物描写に使われていそう。ゲームらしい表現もさほど多くない。
しかしVFXを見せつける大味な作品ではないことは好印象だ。ちゃんとした青春キャラクタードラマになっている。ゲームも力技で押すのではなく、きちんと伏線をはってゲームルールで可能と示してから、ちょっとした工夫と応用で攻略していく。
結末も、世代差を時間改変でハッピーエンドにむすびつけるまでは予想していたが、そこから再会して恋愛でもりあげるのではなく、世代差にむきあう悲しみを感じさせるビターエンドになったのも感心した。


ただし、意外とていねいに物語をまとめているだけに、無駄が少なすぎて作為が気になるところもあった。
特に、残りライフを全員が無駄なくギリギリまで使っていったのは、途中のギャグで使い捨てる局面もあるとはいえ、終盤では綱渡りの緊張感が逆にとぎれてしまった感がある。

*1:現在の日本における仮想現実ゲームの映像作品は、潮流をつくりだした『ソードアート・オンライン』を代表として、現実とゲームのキャラクターを一致させることが多い。多少の外見を変化させても性別などを変える例は少なく、あくまで異世界で冒険するためにゲームという設定が用いられている。

法務省の広報マンガ『桃太郎と学ぶ民法(債権法)改正後のルール』が色々な意味で面白い

yasei_desk氏のツイートで知ったが、たしかに広報や啓発を目的とした漫画として興味深い内容だった。

問題の漫画はPDFファイルで政府ドメインにアップロードされている*1
http://www.moj.go.jp/content/001311772.pdf
いかにもファミリー向けの絵柄で、昔話のキャラクターを現代的なトラブルに直面させて、法律の説明をおこなうという形式。見た目は単調で期待しづらい。
しかし読んでみると、ただでさえギャップがある昔話の世界観と堅い法律説明に、淡々としたボヤキで奇妙な生活感がくわわり、シュールな雰囲気をかもしだしている。


昔話の善悪をひっくりかえしたりするパロディなので、キャラクターも状況設定もわかりやすい。
さらに世界観が過去であることや、擬人化動物をつかっていること、説明役が女性であること*2などで、解説漫画が批判されがちなさまざまなバイアス*3を回避できている。
とはいえ、上記までは珍しくない工夫だろう。すごいのは、冒頭いきなり解説役によって主人公がトラブルに巻きこまれる、理不尽なスピード感。

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あえて明らかなマッチポンプにすることで、こうした漫画の御都合主義をメタフィクション的に解消しつつ、解説役と相槌役に上下関係が生まれない。これほど主人公に共感しやすい解説マンガは珍しい。
さらにトラブルごとにキャラクターの法律における優劣が変わり、先読みできない展開に意外な読みごたえがある。それでいて法律を盾にする鬼といったキャラクターの一貫性は守られている。
つまらない長台詞という下手な広報漫画がおちいりがちな問題もない。基本的に短いかけあいでコマを進め、長々と条文をひく台詞はうまくギャグで流して要約につなげている*4


ちなみに「マンガ:ほんままり」というクレジットから検索すると、広報漫画の制作会社「マンガ製作所」に登録されていた。
ほんままり|漫画家詳細|【マンガ製作所】安心料金設定|高品質な漫画制作・イラスト制作
しかし掲載されているサンプルは平凡な印象で、良い意味でのシュールな味わいは感じられない。
漫画家個人のサイトも見つけたが、仕事を募集をするシンプルな内容で、やはり実際の漫画の面白味がつたわってこない。
Mari's illustration
多くの広報漫画の実績から、技術がある漫画家とはわかる。しかし一頁に情報をまとめたような漫画が多くて、あまり良さが出ていない。

*1:なぜか異様に画質が悪いが、印刷を意図していないのだろうか。

*2:ただし、現代人が古代人に対して知識で優越するパターンであることには変わりない。そこで関係の上下が生まれない工夫は後述のとおり、キャラクター設定とは違う次元でおこなわれている。

*3:この点では、自民党憲法改正解説漫画がひどかったことが記憶に新しい。 hokke-ookami.hatenablog.com

*4:14頁等。

『映像研には手を出すな!』第1話 最強の世界!

大童澄瞳原作の、アニメを作ろうとする女子高生3人の漫画をTVアニメ化。NHK総合で放映されているが、なぜか配信はフジテレビオンデマンド。
eizouken-anime.com
しかし原作と違って『未来少年コナン』のタイトルこそ出ないものの、その映像の魅力を見事に再現して劇中で流せたのは、やはり同じNHKアニメだからだろう。主人公による演出の論評もうなずくばかり*1
湯浅政明監督が自社のサイエンスSARUで制作した映像も危なげない。初回はこれがTV初コンテとなる本橋茉里が手がけながら、細かい日常芝居に見どころが詰まっている。緻密でいて描線は手描きの味わいを残した背景美術に、シンプルなキャラクターが小気味よく動く。
アニメーター志望という水崎がスケッチブックを開いた場面などは、「そんな女子高生おらへんやろ!」とツッコミたくなるベクトルの巧さで笑った。いや美大志望などならわかるが、てっきりアニメキャラの模写がならんでいるとばかり予想していたので、そのギャップについ笑ってしまったし、冷静に考えるとアニメーターになりたいという本気度を感じる。
絵を重ねて得意分野を組みあわせ、思いつくまま設定をつぎたしていく主人公たちの姿も、クリエイティブの本当に面白い瞬間のひとつをうまく抽出していた。


湯浅監督がコンテに手を入れたらしい後半もダイナミックな作画が楽しめる。少し『リトル・ニモ』のテレコム版パイロットフィルムを思い出した。
よく見るとデジタルを使った省力も多く、3DCGで組んだ背景もシンプルな箱でしかないが、的確なレイアウトとカメラワークで広大な空間をちゃんと感じさせる。
ちなみに公式サイトの浅野直之インタビューによると、作画的な見どころとなったカイリー号の飛びたつ場面は、松本憲生が担当したという。
NEWS|TVアニメ『映像研には手を出すな!』公式サイト

技術のある方でなければ、上手くいかなかったかもしれない、と思うようなシーンだったので、今回、松本憲生さんが担当してくださったおかげで、アニメ―ションとして、見ごたえがあるシーンになったのではないかと思います。

同じ浅野直之キャラクターデザインの『おそ松さん』に参加して、その時にフラッシュ作画もおこなっていたので、考えてみると順当な流れではある。


そうしたアニメーションの根幹的な面白味を展開しながら、クールダウンして日常にもどって、ちゃんと若者たちが創作を目指す物語としてまとめたのも見やすかった。
アニメーターとしては狂騒的な画面をつくりながら、物語はよどみなく進めて人々への目線は優しく、映像のフェティシズムに淫しない……そんな湯浅監督の良さが出ていたと思う。

*1:アニメガタリズ』には少しこの方向を期待していた。