公園のおおきな時計の下で美翔舞が待ちぼうけ。寝過ごした日向咲が駆けつける直前、公園横の時計店へひまつぶしに入っていく。なんとか合流した少女ふたりは、急いで町内のど自慢大会に向かう。
近道で川をわたったら話しかけられたりして完全に遅刻したが、商品券目当てに日向がたのみこみ、特別に参加させてもらう。しかし衝突したふたりがうまく歌いだせなかったその瞬間、世界が静止した……
『プリキュア』シリーズ3作目の劇場版として2006年に公開された中編アニメ映画。監督は劇場版1作目から担当してきた志水淳児で、TV本編のシリーズ構成を担当した成田良美が脚本。
現在まで『プリキュア』シリーズの劇場版はどれも尺が1時間半に満たないが、今作は『デジモンセイバーズ THE MOVIE 究極パワー!バーストモード発動!!』*1と同時上映されたこともあり、尺が約50分で1時間に満たない唯一の作品になっている。
しかしそれよりも特異なのは、本当に平凡な少女の日常から物語がはじまること。女児向け変身格闘少女アニメという新たなジャンルを切りひらいた1作目と続編の2作目と、シリーズのフォーマットを構築した4作目にはさまれた作品ゆえか、ここまで地に足のついた静かな導入は珍しい。
4作目からは設定は日本でも無国籍であったりファンタジックな街を舞台にすることが多いシリーズだが、今作は起伏と自然のある住宅地を舞台にして、主人公たちの移動にあわせて生活感ある情景を印象づけていく。質感ある行信三の背景美術が『おジャ魔女どれみ』シリーズを思い出させる。あまり好きではない志水コンテだが、時計店から川わたりまでのシークエンスは静かな街をそっと切りとっていて悪くない。「プリキュア」らしいファンタジー要素もほとんどなく、のど自慢大会までマスコット的な妖精こそ横にいるが、いっさい変身しないし戦闘もない。
主人公ふたりがケンカをはじめる理由が敵の策略などではなく、自分自身に責任のある落度に設定されていることも目を引く。よく過激な描写として話題にされる劇場版2作目のプリキュア同士の戦闘は、洗脳された結果にすぎないので実はドラマとしては意味がない。主人公ふたりのケンカからはじまるとして話題になった8作目は、実際に見ると明らかにたがいを好きすぎたがゆえのすれちがいだった。
もちろん変身格闘少女アニメではあるので、時間を制止させた敵にたちむかうことになる。当時よく参加していた田中宏紀の滑らかな高速アクションが楽しい。
しかし初戦で敵に圧倒されてからは、砂漠と階段がまじりあったような迷宮に閉じこめられ、協力して変身して戦ったばかりのふたりは再び仲たがいをはじめる。
そもそも日向は時間が静止した時に喜び、こっそり食べたいものを食べようかという冗談まで口にした。登場人物が少ないこともあり、他の劇場版ではゲストキャラクターが担当するような過失のドラマを主人公が背負う。
ふたりがバラバラになって行動する描写は、残念ながらレイアウトがゆるくてシチュエーションほどの孤独感などはなかったものの、短い尺のなかで時間をつかって迷走と再生のドラマを描いていく。
静止した時間のなかでひとりだけ王になることは、孤独になるということ。静止をこばんで未来を目指す主人公ふたりは、『キボウノチカラ~オトナプリキュア'23~』や『魔法つかいプリキュア!!~MIRAI DAYS~』といった後日談シリーズに近いドラマに向きあいつつ、あくまで子供向け作品ということもあって重すぎないよう描いていく*2。
それなりに渋みを感じさせた敵が追いつめられるとテーマと関係する台詞を饒舌にしゃべったり、怪物化する平凡なパターンになったことは少し残念だったが、日常にもどったふたりの歌がそのままエンディングになるシャレた演出でお釣りがくる。
東映の子供向け劇場版レベルなりに作画は安定しているし、絵と話の両方で明確なコンセプトを描けている。まだ定期的なイベントとして成立していない時期の劇場版だからこそ、独立した映画として構築する意図を感じる埋もれた佳作。
*1:hokke-ookami.hatenablog.com
*2:しかし『キボウノチカラ~オトナプリキュア'23~』での日向と美翔が、今作をふまえているように思えないことが釈然としない。成田良美がシリーズ構成をつとめているのに。
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