法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『デジモンセイバーズ THE MOVIE 究極パワー!バーストモード発動!!』

シリーズ5作目にあたる『デジモンセイバーズ』の劇場版として、2006年に公開された。
デジモンセイバーズ THE MOVIE 究極パワー!バーストモード発動!!
TV版のシリーズディレクターは伊藤尚往*1で、キャラクターデザインは青井小夜*2。シリーズで最も頭身の高いデザインで、怪物を使役する系統のアニメとしては珍しく、主人公は拳で怪物と語りあう。それにより、ポケモン系作品は主人公が他人を戦わせて虐げているという問題を、面白すぎる絵面で回避してみせたわけだ。
対する劇場版は、短編ながら映画初監督の長峯達也と、山室直儀キャラクターデザインという組みあわせ。脚本のみTV版シリーズ構成の山口亮太。視点人物を映画オリジナルのヒロインにしたのは、監督がTV版に参加せず距離があったためか、それとも『映画ふたりはプリキュアSplashStar チクタク危機一髪!』と同時上映のため女児観客を想定したのか。

もちろん主人公を映画オリジナルにした意味がないわけではない。あくまで50分の『プリキュア』に対するオマケなので、『セイバーズ』は20分の尺しかない*3。そこでメインキャラクターの多くが敵によって封印されたという導入で、ゲストヒロインを視点人物にすることで時間内に収めたわけだ。導入時点から世界が敵に支配されかけていて、敵に追われたゲストヒロインがパートナーデジモンに助けられ、目的地に向かうという展開も無駄なくわかりやすい。
「進化」によってデジモンのサイズが変わることも活用し、屋内の格闘戦から市街地の追跡劇、怪獣映画のような巨大バトルまで、多彩なアクションで楽しませてくれた。ヒロインに隠された真相も世界観にそったものだし、TV版の主人公にも見せ場は用意されている。


映像面も悪くない。演出では細田守監督らが手がけたシリーズ劇場版の初期4作品におよばぬものの、後の技巧を思わせる部分が散見される。いかにも山内重保監督の薫陶を受けた演出家らしく、無言でたたずむような1カットが長く、アクションではクローズアップなカットをこきざみにつないでいく。支配された都市に黴がはびこっているかのような美術設定は、ちょうど放映中のシリーズディレクターSD作品『ハピネスチャージプリキュア!』そっくり。中華料理店で戦ったりと香港映画を意識し、EDクレジットでもアニメにはありえないNG集を新規作画していたりと楽しい。
作画の見どころも多い。これも山下高明中澤一登らが作画監督した初期4作品ほどではないが、ていねいな山室直儀の作画修正によって最低限のクオリティをたもっていた。原画も当時の東映で集められるアニメーターがそろっており、馬越嘉彦や冨田与四一といった有名人から、西田達三や林祐己といった若手まで、まんべんなく良い仕事をしているようだ。ベストな仕事は、クライマックスの進化シーン1段階目を手がけた西田達三の、ディテールを落とした滑らかで重量感ある作画か。


少し残念なのはボスキャラ。まず、ありきたりな人類批判を動機として語るのは、尺の短さから考えればしかたない。一応、作品設定と関連もしている。
それよりボスキャラをはなわが演じたため、設定ほどの風格を感じないのがつらい。TV版では別のデジモンを演じていたのだし、せめてゲストヒロインを追いかける下っ端デジモンを担当させるべきだったろう。

*1:言及していなかったが、今年夏のワンピースSPを監督していた。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20140913/1410655058

*2:10月から放映の『オレん家のフロ事情』の監督をしている。http://www.orefuro.jp/

*3:あまりに短すぎるためか、DVDにはTV版のOPED前後期がノンクレジットで収録され、24分という表記がされていた。