法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』ウソかマコトか?2時間SP

「衛生カメラが捉えた地球の謎」*1は、人工衛星が撮影した地球上の不思議な光景を、さまざまな学者に真相を推理させ、時に実地取材する恒例番組。前半と後半で2回紹介。
 しかし最初の謎が、幅数100m、長さ64kmもある森の直線で、自然にありえないから人工物の道路だろうと推理したのが気象学者なのが痛い。現地に行ってみると森との境界線は直線ではなく、木々が倒れて原っぱになっているだけで人間が利用している様子ではない。実は8年前に生まれた雷雲を調べてみると竜巻が発生していて、木々をなぎたおしたのだと判明する……回答は面白かったが、気象学者こそ正解にたどりつくべきでは?と思わずにいられなかった。
 アラスカ州の小さな漁村の海辺全体がオレンジ色の粘着物質でおおわれた謎は、さび病菌なる菌が大量発生したもの。魚の大量死の原因もそれだった。しかしマツ科の植物にのみ寄生するはずの菌が海岸や海面から顔を出している岩に付着していた原因は不明。
 旧ソ連スペースシャトルコピー品が放置されていた基地も、崩壊後の経緯など簡単に調べられそうなのに番組内での説明はなし。スタジオで指摘されたように前半は写真に映ったものの正体だけ判明して、理由は不明のままなところが多く、消化不良感があった。
 後半に入るとサハラ砂漠貿易風で寄せられた砂によるオレンジ色の線や、硫黄島の周辺に米軍が沈めた消波用の船が隆起によって地上に露出したこと、アーティストがつくった巨大な模様など、逆に理由がはっきりしすぎているものが多く、謎めいた面白味は減退していた。


「巨大オオカミ男」は、米国ケンタッキー州で出没するオオカミ男を撮影しようとする番組。番組がダイジェストしているためか、超常現象バラエティなのかモキュメンタリーなのか判断しづらい。
 罠をしかけて監視カメラで待ちかまえたところ、餌のヤギにオオカミ男らしい影が近寄ってきたが、あっさり逃げられて監視カメラに映った姿も一部分だけで不明瞭。
 今どきこんな雑なオカルト番組が許されるのか、という驚きだけがあった。


「グッチ殺人事件」は、グッチの3代目社長が1995年に殺害された事件のドキュメンタリ。なぜイタリア発ブランドの社長が米国で暗殺されることになったのか、その数奇な運命をたどる。
 創業者の地味な孫マウリツィオが米国にわたり、そこブランドの大衆化で成功した伯父のアルドをたよって頭角をあらわす。家族の反対を押しきって結婚した妻パトリツィアも生活をささえる。そしてアルドの株式を獲得したマウリツィオが成功しながら殺害されるまでを、現在のパトリツィアなどの証言で描いていく。
 けっこう有名な事件のはずが、まったく知らなかったので真犯人にはけっこう驚いた。たしかこの番組でも前例がある、ドキュメンタリだからこそ意表をつく手法で、その可能性自体は念頭に入れながら視聴していたのだが。
 ともかく創業者一家の勢力争いだけでも興味深く、ファッションブランドの方向性を争っていたところも深掘りすれば商売ドラマとしても見ごたえがありそう。
 検索すると、あのリドリー・スコット監督が2021年に『ハウス・オブ・グッチ』として劇映画化していた。有名監督なのに、あまりに多作でいてジャンルが多岐にわたるため知らない作品がけっこう多い……


「海のコカイン」は、メキシコ北西部のカリフォルニア湾で、トトアバという魚の浮袋が近年になって高価な取引対象になり、麻薬組織に乱獲されている問題を追う。
 追跡するのはジャーナリストのような民間からインターポールやFBIのような組織まで。そして民間の組織としてシーシェパード環境保護団体という説明だけで登場したことには驚いた。その組織や行動に、ドキュメント部分だけでなくナレーションやスタジオでもいっさい疑義が入らない。『ザ・コーブ』騒動から十数年、時代の変化を感じざるをえなかった。
 シーシェパードらしくトトアバの乱獲だけでなく、その影響によるコガシラネズミイルカの減少も問題視しているが、検索してみるとナショナルジオグラフィックの『シー・オブ・シャドウズ』についての説明でもそちらの減少を重視していた。
シー・オブ・シャドウズ|番組紹介|ナショナル ジオグラフィック (TV)

コルテス海に生息するコガシラネズミイルカ(通称:バキータ)の絶滅が危惧されている。同じ海域に生息するトトアバの密漁により、バキータの数が激減しているのだ。トトアバはメキシコや中国の密売人がこぞって狙う高級魚で、密漁が後を絶たない。絶滅寸前のバキータを救おうと、自然保護活動家やメキシコ海軍が立ち上がった。彼らは危険を顧みず、潜入捜査に挑み、犯罪組織に正義の裁きを下す。前代未聞の闘いが今、始まる。

 一方でこの番組のダイジェストはあくまでトトアバの乱獲と、それを主導するトトアバ王の逮捕、そして背後にいる中国人実業家ウー・ジュンチャンを重視。これはこれで現代日本の排外主義的な中国脅威論*2の反映ではないかと感じなくもなかったが、現代中国の経済力を背景とした世界的な問題のひとつであることも確かだ。
 トトアバ漁をおこなうのが麻薬組織で、それを妨害しようとすると火炎瓶を投げつけてきたりする。環境保護のために実力行使するシーシェパードが、著名人からも寄付や支援をおこなわれている謎は、そもそも世界的に暴力的な密漁者が珍しくないことを考慮すべきなのだろう。
 またメキシコにおいては逮捕をまぬがれていたトトアバ王が、たまたまバッテリーがあがって助けを求めた男たちに不信感をもって射殺して、その男たちが軍人だったため逮捕されたという経緯は、国家が本腰を入れるのは軍隊に実害を与えるレベルに達したからではないかと感じた。しかしトトアバ王を逮捕しても密漁は変わらず、黒幕の中国人が浮かびあがるわけだが、そちらは中国公安当局も逮捕しようと動くあたりに中国政府らしさを感じた。市民を管理しようとする問題は大きいが、それゆえ個人の犯罪に対しては原則として厳しく、国際的な秩序の維持にも協力する。


「ダビンチ幻の肖像画」は、よく知られている自画像は別人という説も出ているダビンチに、本当に自画像かもしれない絵が2008年に見つかったことを紹介。
 もともとガリレオ肖像画としてもちこまれた絵をダビンチの肖像画と考えた美術史家ニコラ・バルバテッリが、さまざまな鑑定を駆使して、それがダビンチの自画像という状況証拠をつみあげていく。
 元はフランスのドキュメンタリで、検索するとEテレの『ドキュランドへようこそ』で2020年に「ダビンチ 幻の肖像画」として放映されていたようだ。
www.nhk.jp
 ダイジェストされた範囲では謎解きドキュメンタリとして面白いし、当時はそれなりに報道されて現在も可能性は否定されていないようだが……

*1:公式サイトから引いたが、「衛生」は誤変換だろう。https://www.ntv.co.jp/marumie/articles/3264rkbx2w6jo298r0g3.html

*2:中国崩壊論が流行していた時代とどちらが良かったのかは、なんとも言えないが。 【悲報】中国が崩壊するする市場は中国が崩壊しないかぎり盤石【不死身】 - 法華狼の日記