総理をねらった爆弾のパーツがどうあつめられたかをさぐって、杉下たちはヤクザを破門された男にたどりつく。一方、元国家公安委員長が何度も刺されて殺されていたことから、犯人が返り血をあびている可能性に亀山は気づいた。ともに行動していた高田から近隣の着替えられそうな場所を教えられ、ふたりでふみこんだところ、何者かに閉じこめられてしまった……
枠を少し拡大したスペシャルの後編。前回につづいて徳永富彦が脚本を橋本一が監督をつとめた。
『相棒 season23』第1話 警察官A~要人暗殺の罠!姿なき首謀者 - 法華狼の日記
今回にちりばめた社会派要素をひろって、きちんと刑事ドラマとして成立させてくれることを期待したい。長期刑事ドラマとしては珍しいほどトリッキーな真相を用意してきたのが徳永脚本だから。
残念ながら、まったく期待はずれだった。前回からつづく政治家の爆殺未遂や闇バイト、そして今回に強行された死刑執行や解散総選挙など、ドラマ制作にかかる時間を考えると驚愕するほど最近数週間の時事問題を多くとりこんでいるが、各要素の事件との関連性は安易な定番ばかりで意外性がない。
特に前回の引きから今回のクライマックスへつながった爆破事件は、一種の自作自演をにおわせるという陳腐な陰謀論で、現在に提示するならひとひねりがほしい。たしかに現実にもトンキン湾事件のような陰謀は存在したし、今回のドラマで描かれた陰謀も意外と関係性のスケールが小さいし言質をとられないような示唆にとどめているものの、最近の似た事件へドラマのような陰謀論を接続させない配慮が足りない。
現実の事件を思い返せば、支持率上昇という目的は達成できなそうという根本的な疑問もある。首相が覚悟を決めて演説した姿勢で支持率が上向いたという部分は説得力がそこそこあったので、爆破未遂にはさらに別の動機も用意してほしかった。
杉下と対峙するキングメーカーを演じたでんでんの怪演は悪くなかったし、そのキングメーカーが警視庁はしょせん政府を守るためにつくられたと指摘するあたりは良かったのだが。
また、国家公安委員長の刺殺事件も、前回の背後でわずかに語られていた過去の事件が動機の根本をなしていて、その過去の事件がくわしく説明されるのが今回の前半というのは遅すぎる。
その過去の事件の発生や被害をうまく抑制できなかったことが刺殺の動機というのも、杉下が指摘するように逆恨みという印象がぬぐえない。見ていて警察の判断ミスをどこかに告発するべきだとしか思えなかった。
ただこちらは過去の事件で重い後遺症を負った警官のために相棒の警官が刺殺したという真相に対応して、被害者が当時の国家公安委員長という責任者には一応なっている。
それにくわえて、過去の事件を模倣することで厳罰化の世論を誘導して、死刑執行を早めたという根幹の動機は前例が記憶にない。なるほど司法の管理下にある囚人を被害者が生きているうちに死なせたかったという動機は、他の手段が考えづらいし、きちんと描けば興味深いドラマになったと思う。この動機はあまり関係のない政治ドラマにくっつけず、死刑制度をテーマにした物語に組みこんでほしかった。惜しい。