トランシルバニア王国のルナ姫が乗っていた旅客機が謎の墜落事故をおこした。落ちていくルナ姫に対して、フロイと名乗る謎の存在が語りかける。宇宙のはてから幻魔という侵略者が近づいていることを。
一方、学校生活があまりうまくいっていない東丈という青年は、恋人にも距離をとられて新宿をさまよっていた。その時、周囲の人々が静止して、謎の存在が東を攻撃しはじめる。工事現場に追いつめられた東は……
りんたろう監督による1983年のアニメ映画。平井和正の小説版に石森章太郎作画の漫画版の要素もとりいれつつ、まだ一部にしか知られていなかった大友克洋をキャラクターデザインに起用して、ひとつの長編アニメとしてまとめている。
きちんと最初から最後まで視聴したのは初めて。大昔に機会があった時にクライマックスの火炎龍だけ見て、他にはアニメ関係の書籍で設定や場面カットを知っていただけ。
アニメとしては期待以上に充実している。冒頭の飛行機墜落のエフェクト作画や、静止した街で主人公が追われる描写のホラー感。日常的な物品が無数に超能力で浮遊し激突するアニメーション、廃墟化したニューヨークの銃撃戦*1、富士山の溶岩流など、火炎龍以外も見どころが多い。
夜間飛行のようなオカルティックな場面も、同種の宗教アニメとくらべて全体的にイメージが斬新で力強い。富士山麓の動物たちとの描写だけは古い手塚治虫アニメのようで緊張感が欠けていたが、複数の動物をきちんと動かしていて作画自体は悪くない。描きこみすぎない絵画的な背景美術も、むしろアニメーションとしての力強さを感じさせる。
ただしニューヨークと東京が破壊されるディザスター描写は複数の止め絵をスライドで見せるばかりで、きちんとしたアニメーションで破壊を見せてくれないところが残念。モブシーンも少人数か止め絵ですまされて動かない。大友克洋らしい絵柄は楽しめるが。
キャラクターデザインはサイボーグ戦士のベガが圧倒的に良い。滑らかなフォルムで今なお斬新なシルエットに左右非対称なディテール。
しかし主人公姉弟は平凡な顔立ちで、特に姉が襲われる場面でブラジャーが見える描写など劇画アニメのような芋っぽさ。他の超能力戦士も全体的に華がない。とはいえ物語の要求にあわせて、当時なりにリアルな絵柄で老若男女と人種を描きわけられている良さはある。
残念ながら敵は瞳がなく牙の生えた怪物的なデザインも嫌らしい台詞回しも全体的に安易だが、腹部がなくて上半身が浮いているデザインは悪くない。それに状況の異様さと対比的に紳士的な姿と言動のカフーは素晴らしい*2。もちろん金田伊功作画の火炎龍は絶品で、つかいまわしは少し気になるものの、後年にさまざまなフォロワーが生まれてなおオリジンの魅力がある。
そして物語だが、2020年代に視聴するからと覚悟していた以上に宗教アニメっぽさがひどい*3。超能力戦士をあつめて超常の侵略者を撃退する構図の古臭さだけが原因ではない。
致命的なのが、冒頭で搭乗機が墜落したことでルナが精神だけの存在になり、そこでフロイが幻魔の到来をつげる場面。とにかくイメージ的なシーンに説明台詞が延々とつづく。変化があるのはベガの別れの場面くらい。
直後に主人公が東京で謎の機械人間ベガに襲われる場面があり、その戦いの結末であらためてフロイが同じ説明を短くおこなうのだから省略しても良かっただろう。先にベガの立場を説明してしまっているため、襲ってきてもビジュアルの魅力にくらべて緊迫感が弱くなっている問題もある。
てっきりアニメ映画としてわかりやすくするため説明を足したのかと思いきや、石森章太郎の漫画版をたしかめると、同じように背景だけのコマに長文の説明が見開きで展開している。ただし漫画は読者が自分の意図した速度で読めるし、漫画表現としての珍しさもあって、意外と違和感なく面白い。だからこそ媒体を変えたなら描写も改変すべきだろう。
フロイの説明がくりかえされるだけでなく、主人公が戦士らしくなってはルナと別行動をとって挫折する展開がくりかえされるのも映画としては良くない。連載漫画なら長期にわたって山と谷が反復されてもいいが、ひとつながりの映画では見たばかりの展開が工夫なくくりかえされて主人公が成長していない印象を強めてしまう。もう少し物語として起伏と出来事をまとめたり省略しても良かったのではないかと思った。
ただ同年公開の高年齢向けアニメ映画が『宇宙戦艦ヤマト 完結編』*4だったりするので、それとくらべればずっと物語も完成度は高くはあるし、極端に精神的というわけでもない。思えばスピリチュアルな時代だった。