番組終了後のクイズもふくめ、今回の放送は全体的にドラえもんのネズミ嫌いをピックアップしている。けっこう珍しい。
「うら山の無敵城」は、スネ夫の城ジオラマを自慢されたドラえもんが城の知識を披露して、逆にスネ夫と意気投合。裏山に城をつくってみることにしたが、のび太たちはふたりの美学を理解できず……
伊藤公志脚本、小倉宏文監督コンテのアニメオリジナルストーリー。小倉コンテのテロップ多用はあまり好きではないが、今回は和風の物語なので巨大な縦書きテロップがなじむ。
敵を想定したリアルな城をつくろうとするドラえもんたちと、敵なんてどこにいるのかとツッコミながらテーマパークをつくろうとするのび太たちの齟齬がドラマを生む。
リアル志向とエンタメ志向の対立でどちらかに偏ると、軽視される少数派が哀れに感じられて、たとえ暴走のむくいだとしても素直に笑うことができない。しかし今回のようにリアル志向がふたりいて、そのひとりが強者であれば、最終的にひどいめにあっても楽しみやすい。
冒頭のスネ夫の用意したジオラマが現存天守十二城で、ドラえもんとの細かい知識のかけあいも軽妙で、マニアらしい暴走が楽しい。そして城を実際につくる段になると、さまざまな知識を反映したビジュアルが展開されるので説得力がある。多用された3DCGも立体的に城のリアリティを確保する。
城をテーマパークのように楽しむのび太たちをスネ夫は嫌がるが、そもそも江戸時代以前から豊臣秀吉などは戦争のためだけではない城をつくっていたので、計画を無視するのび太たちに嫌悪感がわくこともない。
それでいて最終的に目標としていた城をたててスネ夫とドラえもんが楽しむ姿も描かれるので、ネズミの登場から崩壊する結末となっても全員がそれなりに楽しんだ結果はのこった。ネズミによって暴走するドラえもんが自身のつくった城の構造でひどいめにあうギャグも、城の機能を視覚化した楽しさがあった。
「身がわり紙人形」は、ひなまつりの集まりにドラえもんが遅れていたので、のび太が呼びに帰るはめになる。ドラえもんは階下にプレゼントを落とし、ネズミがいると考えて動けずにいた……
後期原作を2005年リニューアル以降で初のアニメ化。ひな人形の原型となった身代わりの紙人形を引用したストーリーと秘密道具なので季節ネタらしさが出ている。
これまで演出を手がけてきた新井美穂は、今回で初めて絵コンテも担当。おおむね原作にそった物語を、忠実に物語の良さをいかすような情景に展開できていた。紙人形にいっさい身代わり対象をオーバーラップさせないことで、ただの紙人形がドラえもんやのび太としてあつかわれるシュールさが見事に出ている。