「地獄にジャイアン」は、ひどい目にあってジャイアンに地獄に落ちてほしいと願うのび太のため、ドラえもんが秘密道具を出す。しかしその秘密道具はちいさな罪でも人間を吸いこんで……
アニメオリジナルストーリーだが、『キテレツ大百科』の「地獄にいらっしゃい」との共通点が指摘されている*1。秘密道具「箱入り地獄」の形状が子供の工作でもつくれそうで、かわりに和風の装飾が入っているあたりも印象が似ている。
寺本幸代コンテ演出回*2だが、普段とくらべて特別な絵作りという雰囲気は少なめ。牛乳パックにつかうような「地獄底」の構造をアニメーションで説明したり、地獄の背景が複数の紙をならべた日本画のように縦横の線が入っていたり、細部はこだわっていたがアクションが特にすごいという感じはない。
どちらかといえばのび太とスネ夫の暴走と挫折の天丼ギャグを重視して、あえて似たパターンをこきざみに反復していた。そして実際、演出が過剰ではないからこそ、ボロボロになっていくのび太とスネ夫が笑える。
地獄に送られたり無罪となったりする線引きも最低限の説得力があって、別作品の描写を違うキャラクターで再構成しているのに違和感がない。今回の成功をうけて、今後も藤子・F・不二雄の別作品をアレンジしてアニメ化することがあるかもしれない。
「新聞社ごっこセット」は、ころがってきたボールをのび太がよけると、怒ったジャイアンに倒されてしまい、その光景をスネ夫が撮った。そしてスネ夫はのび太がボールでころんだというタブロイド紙をくばる……
単行本未収録だった作品の2005年リニューアル以降のアニメ化。絵コンテはひさしぶりの永居慎平。
のび太のヤラセにはじまりゴシップ、さらに秘密道具を年下から返してもらおうとするのび太をイジメとして切りとりと、やりたい放題のスネ夫たち。直接抗議されても表現や言論の自由を盾にする。
一方で秘密道具の力を借りつつ足でネタをさがすのび太はうまくいかなかったが、対立メディアの捏造した証拠をつかんだことに気づいて立場が逆転。スネ夫タイムズを廃刊させられる立場となってマウントをとりはじめ、ジャイアンをとがめるためパパラッチ的な暴走をはじめる。そしてパパラッチをとがめられて暴力をふるわれ、のび太自身の被害がスクープとなる意図せざる自作自演。
描写そのものは原作にほとんどあるが、さまざまな角度から報道を風刺するように演出で強調されて、ブラックコメディとしてはよくできていた。