法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season21』第9話 丑三つのキョウコ

悪徳フリースクールの代表が殺された。それと同時刻に撮影された都市伝説の映像との関連が疑われる。映像に残された白いコートで長髪の後姿は自分の心臓をさがす「丑三つのキョウコ」という女性のものとされた。しかしSNSにアップロードされた映像に対して、以前から都市伝説を追っているアカウントが捏造だと主張していて……


根本ノンジ脚本、権野元演出。予告で期待したよりはホラー感がなく、謎の人物が無責任に撮影され論評されて都市伝説となっていく社会を滑稽に描く。冒頭の都市伝説イメージ映像くらいは、もっとJホラーらしい恐怖をあおる演出で見たかった。偶然に撮影された劇中の映像も、もっと実際の夜間スマホ撮影を再現してほしい。発端がそれらしくないと都市伝説になったことの説得力が欠ける。
ドラマの本筋は、架空の都市伝説と、ひきこもりを無理やりつれだして状況を悪化させるフリースクールの問題がテーマ。そのような状態におちいらせた環境が変わっていないのに、強制的に環境を変えて状態が改善して見えても、一時的な保護をやめれば元通りという問題はホームレスやDV被害者でも見られる。
構造的な問題として批判するため、フリースクール自体は善意で運営されている設定にしても良かったかもしれない。もちろん、傷ついた家族へ言葉たくみにとりいって搾取する支援団体という問題も厳然として存在する。戸塚ヨットスクールは現在もつづいている。


都市伝説の伝播については、SNSを中高年もつかいこなして、「いいね」とは何か視聴者向けの説明すら入らないところが時代だな、と思う。
ウォーキングを趣味とする最初の撮影者がいかにもSNSへの偏見を体現したような軽いキャラクターで、それに文句をつけたアカウントの正体は一見すると少し熱心なくらいの普通の青年らしいと思ったら杉下右京を隠し撮りしてインターネットのオモチャにする……どちらも偏見に満ちた描写ではあるが、残念ながら悪目立ちしているくらいのバランスで、一般人に普及した時代だからこそ全員がそうとは限らないというエクスキューズにもなっている……と思わせて一昔前の偏見をそのまま具現化したような真相を見せるからたまらない。年頭に問題となった権野元の過剰演出*1が今回も悪い方向に出ていそうな気がする。


なお、ふたりの「丑三つのキョウコ」が真贋いれかわるように登場して、たがいがたがいを演じて都市伝説を拡張するという構図になっていたのは面白かった。それにあわせて最初の殺人事件の手がかりが、きちんと劇中に配置されていたことも良かった。
最終的にひきこもりを生んだ教師が、問題を解決しようと強引に相手を責めるというキャラクターが何ひとつ変わっていなかったとわかる結末も味わい深い。だからこそ、ひきこもった教え子がほだされたように行動していたことには違和感があった。いや、一種の依存的な関係でそのように行動することはあるとは思うが、それは良い関係ではないという指摘がドラマのどこかにほしい。