法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハイジ アルプスの物語』

アルプスの山並みに住むアルムという老人のところに、ハイジという少女がやっかいばらいされる。しかしハイジは自然いっぱいの場所で元気いっぱいに同居生活をはじめた。ところがアルムとの生活にあたりまえになったころ、ハイジは急に都会へ住むことになり、足の不自由な少女クララの相手をすることに……


スイスの宗教的な児童小説を高畑勲宮崎駿がTVアニメ化した『アルプスの少女ハイジ』を、スイスとドイツの合作で実写映画化した作品。本国では2015年、日本では2017年に公開された。

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元傭兵のアルムを『ヒトラー 〜最期の12日間〜*1ブルーノ・ガンツがTVアニメを思わせるメイクと衣装で演じる。字幕で視聴すると、興奮した時の口調がヒトラーの激怒するくだりと同じで味わい深い。
現地で撮影しているだけあって自然の風景は見ごたえあるし、都会の風景も必要最低限のVFXをそつなくつかっている。俳優もおおむねTVアニメの印象を壊さない。
主演のハイジは天真爛漫で、強気なところもあるTVアニメよりは普通の子役という感じだが、後述するクライマックスとの関係もあって、けして悪いとは思わなかった。


2時間足らずの映画ということもあってか、アルプス生活は序盤で意外と早く終わる。タイムラプスなどの時間経過演出もつかって、30分くらいか。全体の配分としてはTVアニメと同じくらいだが、一本の映画としては都会のクララとの生活が印象づけられた。
あえて類型的に説明するなら、ツンツンからデレデレへ移行するクララのツンデレぶりが教科書のようで、ハイジがアルプスにもどらないよう引きとめる依存ぶりは百合映画を見ているかのよう。アルプスへもどってからもペーターとハイジをとりあう三角関係ラブコメになっていた。
さらにクライマックスのネタバレになるが、クララがらみでTVアニメと大きく異なる描写がひとつある。よく名場面として語られていたクララをハイジが叱咤して立たせる描写が存在しないのだ。アルプスへ行ったクララは、ひとり自然のなかにいる時、ふとチョウチョに手をのばして立ちあがる。
この場面にハイジはいないが、チョウチョはハイジの象徴という解釈もできるだろうか。いずれにせよ宗教小説と聞く原作小説のような信仰心ではないし、TVアニメのような精神論的な叱責でもない。クララ自身がなにげなく選んだことにすぎないように車椅子から立ちあがる。

この場面にクライマックスと感じさせるような重みはない。ハイジを依存先として必要としない、文字通りの自立だ。あえてここを意識的にTVアニメから変えたのだとしたら、その判断が興味深いところだ。