法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ヒトラー 〜最期の12日間〜』

2004年にオーストリアとイタリアと合作したドイツ映画。ナチスドイツの終焉を、ベルリン陥落を中心に描いていく。
DVDで吹き替え版を試聴した。特撮の分量は多くないし、同じような舞台で最小限の人数しか出てこない。手ざわりとしては、あくまで真面目なTVドラマのよう。しかし作りはていねいで、実物大の戦車戦や広大な廃墟といった戦争映画らしい場面もある。
そして空虚に幾何学的で長大な地下要塞と、空爆や砲撃で廃墟と化していくベルリン市街地といった、戦争末期の情景を重層的に見せていく。静と動が交互におとずれ、2時間半を超える尺を飽きずに見ることができた。


賛否両論あったヒトラー描写についてだが、序盤から誇大妄想と人間不信にとらわれており、群像劇を構成する一要素でしかなかった。優しいのは崇拝する子供たちや身内に限られていて、独裁者らしさとは相反しない。それにヒトラー自決後の物語も意外と長い。原題が『Der Untergang』ということから、もともと独裁者個人に焦点をあてた作りではないのだろう。
かつて熱狂的に支持されたカリスマ性の面影すらない。これがヒトラーの末路を描く映画ならば、たとえばプロローグかエピローグでナチス勃興時のヒトラー熱狂を対比的に見せてほしいところ。
そこで群像劇として見れば、もちろんヒトラー個人の物語でないことに問題はない。興味深かったのは、敗戦後のために書類を破棄する場面や、存在しない部隊へヒトラーが指示を出す場面や、誇りのため敗戦を引きのばすような場面。末期の日本軍と大差がない。建物の窓から吹雪のように投じられる書類や、現実を認識できないヒトラーといさめられない側近の喜劇といった、映像そのものの面白味もある。ソ連軍が目前にせまっているのに裏切者の処刑を優先したり、ある意味では日本軍より往生際が悪い。
さらにいえば、そのような戦争末期の愚行を正面から映像化していること自体が印象深い。立派なドイツ軍人やヒトラー秘書の反省も描かれるのだが、同じ第二次世界大戦を描いた邦画大作には比べるべくもない。
最近も前線の悲惨や銃後の苦難は描かれるが、他民族への加害や上層部の愚劣さを直視した邦画は少ない。戦争の末期では差がなくても、現在の創作では差がついてしまった。それを残念に思う。


ちなみにニコニコ生放送の戦争映画特集で、22日22時から字幕版が無料配信予定とのこと。ニコニコ視聴層から考えると、映像に流れるコメントは非表示にするべきかもしれない。
終戦記念日企画「ヒトラー 最後の12日間」(字幕)/戦争映画連日放送 - 2014/08/22 22:00開始 - ニコニコ生放送
これまでも何度か配信されていたらしいが、字幕なのは特定場面の空耳が人気なためだろうか。
すでに前半の配信は終わっているが、他作品のラインナップは下記ページで確認できる。
終戦記念日企画 戦争映画連日放送 - ニコニコチャンネル:エンタメ
ラインナップされている作品では、『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』がなかなか良かった。
『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』 - 法華狼の日記