法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『殺人の告白』

連続殺人が時効となった15年後、端正な顔の青年が殺人犯としてメディアの前にあらわれて、ベストセラー作家となる。
当時に殺人犯をとりにがし、被害関係者を飛び降り自殺させてしまった刑事は、青年と対立するはずが守るべき立場になる……


華城連続殺人事件をモチーフにした、2012年の韓国映画チョン・ビョンギル監督が、後の『悪女/AKUJO』につながるアクション演出の冴えを見せる。

同じ事件をモチーフとして絶賛された2003年の映画『殺人の追憶*1は、事態の果てしなき混迷を描いた。それを映画館で観ていたスタッフが、近くに座る名も知らぬ男が殺人犯かもしれないと着想して生まれた娯楽作品。
日本で2017年にリメイクされた『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』も人気作となり、金曜ロードSHOW!で明日に地上波発放送の予定。
金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ


さて映画そのものだが、韓国らしいサービス過多がいきすぎて、驚くほどアンバランスだった。
劇場型犯罪や、冤罪事件や、報道加熱や、遺族の復讐などの多くの社会派テーマをプロット段階で組みこみながら、映画としては濃密なアクション描写で娯楽性を担保している。
パルクールで殺人犯を追う冒頭はまだしも、カーチェイスする車から車へ移動しながらつづく殺陣はリアリティを壊すほどだし、さまざまな復讐技を身につけている被害者遺族はキャラクターが立ちすぎている。
しかし斬新なアクション描写が多く、その質も高いし量も満足できることは事実だった。


また、本筋であるはず殺人犯の告白と、対抗する自称真犯人の登場と論争も、これが意外とよくできている。
犯人でしか知りえない情報をもっているという双方の主張にそれなりの説得力があるし、なおかつどちらが偽者であっても物語は成立する。
そして、ひとつの動機が映画の根幹をなしていると明かされるとともに、映画は急転直下の結末をむかえる。その動機そのものがホワイダニットとしてよくできているし、娯楽性を高めている。
残虐で陰惨な事件をモチーフとしながら、せめてひとりでも助けようとする飽くなき願い。能天気な娯楽作品だからこそ成立した、ありえないハッピーエンドがそこにあった。