法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ジャイアンラーメンが来る!/ちく電スーツ

ジャイアンラーメンが来る!」は、のび太たちが夕食として楽しんでいるラーメンの屋台が、もうなくなると主人に教えられる。今後に来る客を秘密道具で前倒しして、主人を元気づけるが、呼ばれてきたジャイアンが影響され……
伊藤公志脚本、そーとめこういちろうコンテのアニメオリジナルストーリー。まったく期待してなかった傑作回。
ラーメンの食材のディテールがアニメになじむバランスで細かく、しっかり油滴まで動かす作画も素晴らしい。いかにも屋台がありそうな古い高架下の背景美術に、その全体像を見せる引いたコンテ。
絵作りが緻密でリアリティあるからこそ、ジャイアンシチューを変化させただけと思われた展開でも新味がある。まずホラー演出の完成度が異常に高く、だからこそ笑えるという高度なパロディギャグとして楽しめた。少しずつ近づくチャルメラの音や、のれんの向こうにチラチラ見えるジャイアン、細い路地の隙間から見える通過する屋台など、想像力を刺激する絵が多い。逃げる先に倒れている子供たちや、自宅に逃げこんでも背後にいるジャイアンなど、ほとんどモンスターホラーだ。オリジナル秘密道具の機能から将来の客しか呼ばれないはずではとのび太が指摘して、だから毎日食べる運命なのだとドラえもんが解説することで、逃げ場のなさをSFホラーとして演出したことも不覚にも感心した。
ジャイアンの考案するラーメンも多種多様で、あらゆる角度から絶望がおそってくる。客へ押しつけないようにとジャイアンへラーメン屋がアドバイスして状況が好転するかと思いきや、さらに工夫したラーメンで絶望させてくれるからたまらない。季節を夏に変えて対処しようとしても、予想通りに冷やし中華をはじめるオチだが、それは予想された悪夢に落ちていくことを止められないホラーに定番の恐怖だ。


「ちく電スーツ」は、ジャイアンが感想にもとめたしびれる感覚を、のび太は実際に周囲にあたえてみたくなる。そこで電気をためるスーツをつかって、周囲に歌の良さでしびれさせていると錯覚させるが……
前期原作を鈴木洋介脚本でアレンジ強めにアニメ化。目を引いたのは中本和樹作画監督が第一原画を一人原画していること。のび太の歌は下手なのに、ちゃんとダンスを動かしていて、制作者が稚拙を意図的に表現しているとわかりやすい。
後半はアニメオリジナル展開で、のび太の電撃による錯覚が子役がいなくて困っている監督にも通用して、菅田将暉をモデルにしたとおぼしきタレント「タダ将暉」のドラマに出演することに。最終的には貯めすぎた電気をコンサートに活用するオチだが、SDGsをギャグに利用しつつ嘲笑的でないところは子供向けアニメのあるべき姿。